「資金繰りは特に問題ないですよ」
そう言っていた社長が、数字を一緒に確認したら、
実は綱渡りの状態だった。
こういうケースに、何度も出会ってきました。
本人に悪意はなく、むしろ
ちゃんと経営しているつもりだった。
でも、判断の基準がなかっただけで、
気づけていなかったのです。
今日は、資金繰りの危険水域を判断する基準と、
経営者として現預金を
どう考えるべきかを整理します。
資金繰りの危険水域は、感覚ではなく数字で判断する
資金繰りが苦しい、という感覚は曖昧です。
人によって基準がまったく違う。
だから数字で見る必要があります。
確認方法はシンプルです。
まず平均月商を出す。
売上高を12で割るか、
過去3ヶ月の売上合計を3で割る。
次に、月末の預金残高と比較する。
預金残高が平均月商を下回っていたら、
危険水域です。
なぜ月商で測るのか。
理由があります。
一般的に、売上高経常利益率が5%を超えると
優良企業と呼ばれます。
裏を返せば、優良企業でさえ
売上の95%は費用として出ていく。
つまり、ほとんどの会社で月商と
月の支払総額はほぼ一致します。
月商がわかれば、翌月どのくらいの
支払いが来るかがおおよそわかる。
だから月商が基準になるのです。
いわゆる自転車操業と呼ばれる状態。
「うちは大丈夫」と思っている経営者ほど、
一度この計算をやってみてください。
「入金を待って払う」が当たり前になっていないか
業種によっては、入金を待ってから支払いをする、
というサイクルが
慣習になっていることがあります。
建設業、製造業など、入金と支出のタイミングが
ずれやすい業種では特にそうです。
でも、冷静に考えると、
これはとても危うい状態です。
例えばこういう会社があったとします。
月末の預金残高が300万円。
翌月の支払総額は700万円。
どこかで400万円の入金があって、
初めて残りが払える構造になっている。
この場合、入金が少しでも遅れたら、
支払いが止まります。
当たり前のように繰り返していると
感覚が麻痺しますが、
毎月綱渡りをしていることに変わりはありません。
業界の慣習だから、
うちの業種はそういうものだから。
その感覚が、判断を鈍らせます。
本当の怖さは「信用の連鎖」にある
自転車操業の怖さは、
お金が足りなくなることだけではありません。
仕入れ先への支払いが遅れる。
外注先への入金が遅れる。
最悪、給料の振込が遅れる。
そうなったとき、相手の頭の中では何が起きるか。
「この会社、大丈夫か?」
一度そう思われると、取引条件が変わります。
「翌月末払いでよかったのに、
翌20日に早めてほしい」と言われる。
信用で成り立っていた取引が、
少しずつ条件が厳しくなります。
帝国データバンクなどの信用調査でも、
平均月商の何ヶ月分の預金を持っているかは
必ず評価される項目です。
月商1ヶ月分を下回っていると、
報告書に資金繰りへの不安が明記されます。
その報告書を見るのは銀行だけではなく、
取引先の与信担当者も見ます。
知らずに、危うい決算書を
作ってしまっているケースが実際にあるのです。
利益を出すことは、現預金を確保することだ
経営者として、利益を出すことの本質は何か。
売上を上げること、コストを下げること
——それは手段です。
本質は、現預金を会社に残すことです。
利益が出ていても、現金が
手元に残っていなければ意味がない。
売掛金として残っている、在庫として眠っている
利益は出ているのに現金がない、
という状態は実際に起きます。
いわゆる黒字倒産はこの構造から生まれます。
だから、利益が出ていても
現金化できていないなら、
その対応を考えることが経営者の仕事です。
売掛の回収サイトを見直す。
在庫を圧縮する。
現金に変わるスピードを意識して経営する。
利益という数字だけではなく、
手元に残る現金で経営の健全さを判断する。
この感覚が、資金繰りへの向き合い方を変えます。
節税より、先に確認すべきことがある
決算が近づくと、節税の話になることが多いです。
これ自体は悪いことではありません。
でも、順番を間違えると危ないです。
節税のために支出を増やして手元の現金が減る。
利益は圧縮できた。
でも預金残高が危険水域を下回った。
節税はできたが、資金繰りが苦しくなる。
この状況が実際に起きます。
現金だけは、決算書の中で嘘をつきません。
どんなに財務指標が良く見えても、
手元の現金が薄ければプロの目には
すぐわかります。
節税を考える前に、まず
平均月商の2ヶ月分以上の預金残高を
確保できているかを確認する。
これが最低ラインです。
2ヶ月分を切っていたら、
節税より先にやるべきことがあります。
そのための借入れも、
選択肢として持っておいてください。
手元資金を厚くするための手段として、
冷静に使える経営者は強いです。
現預金の確保は、経営者の最大の使命のひとつ
売上を伸ばすこと、チームをつくること、
サービスの質を上げること。
経営者がやるべきことはたくさんあります。
でも、会社が続かなければ何もできません。
会社を存続させる最低条件が、現預金の確保です。
利益を現金として残し、
一定の水準を下回らないように管理する。
これは経営者にしかできない仕事です。
うちの事務所でも、クライアントの資金繰り状況を
月次でチェックするようにしていますが、
正直まだ全員に対して
できているわけではありません。
それでも、この視点を持って
関わるようにしてから、
「気づいていなかった」を
一緒に防げるケースが増えてきています。
今日できること
今日一つだけやってみてください。
平均月商を計算して、
月末の預金残高と比較する。
それだけです。
下回っていたら、綱渡りの状態です。
2ヶ月分に届いていなければ、
現預金の確保を優先する経営判断が必要です。
「大丈夫だと思っている」は、
一番怖い状態かもしれません。
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