売上が増えるほど、お金が減る理由

「儲かってるはずなのに、
なんでこんなにお金がないんですか」
そう聞かれることが、よくあります。
売上は伸びている。利益も出ている。
なのに、通帳の残高は減っていく。
決算になると、税金を払うお金すら足りない。
経営者は混乱します。
「仕事は増えているのに、なぜお金がないんだ」と。
でも、本質は、売上が増えると先にお金が出ていく、
という構造にある
んです。

「売上が増えればお金も増える」は思い込みだ

多くの経営者は、売上と入金を
同じタイミングのものだと考えています。
売上が上がれば、お金も増える。
シンプルにそう思っている。
でも、実際は違います。
お金は先に出て、後から回収される。
これが、資金繰りを狂わせる本当の原因です。
売上を作るには、先に仕入や外注費を払う必要があります。
売上が伸びるほど、この「先に出ていくお金」も増える。
だから、業績がいいのに資金繰りが苦しい、という状態が起きます。

会計とお金のズレの正体

具体的に見てみます。
9月に、売上100、仕入60を計上したとします。
損益計算書の上では、9月の粗利は40です。
でも、実際のお金の動きは違います。
仕入の60は、8月のうちに支払っていたとします。
売上の100は、10月にならないと入金されません。

8月:60のお金が出ていく
9月:損益計算書上は40の利益(会計上のみ)
10月:100のお金が入ってくる

損益計算書は発生した月に記録する仕組みです。
お金は実際に動いた月に動きます。
この二つは、別のタイミングで動いているんです。

このズレ方は、取引先との関係性で変わる

このズレの大きさは、
業種や取引先との取り決めによって変わります。
建設業のように、着手金・中間金・残金という形で
工事の途中でも入金がある業態は、
ズレが比較的小さく済みます。
一方、製造業や小売業のように、
先に商品を作って在庫を抱え、売れてから回収する業態は、
ズレが大きくなりやすいです。
同じ業種でも、取引先との支払い条件・回収条件が違えば、
資金繰りの厳しさはまったく変わります。
「うちの業界はこういうものだ」
と思い込んでいる方も多いのですが、
実は交渉の余地があることも少なくありません。
大事なのは、先にもらうか、後で払うかの両方です。
着手金や前受金をもらう形に変える。
継続契約なら月額前払いに切り替える。
これは「先にもらう」側の工夫です。
一方、仕入や経費の支払いは、
クレジットカード払いに切り替えることで、
実質的に支払いを後ろ倒しにできます。
これは「後で払う」側の工夫です。
ただし、社員の給与だけは別です。
これは早く払う方が、当然社員は喜びます。
ここまで後ろ倒しにする対象ではありません。
もらうのは早く、払うのは遅く。
この両輪を、払っていい部分
そうでない部分を見極めながら整えていくことで、
必要な運転資金そのものを小さくできます。

そもそも「運転資金」とは何か

ここで、基本に戻ります。
運転資金とは、仕入や経費の支払いから、
売上代金の回収までの間、
会社が立て替えているお金
のことです。
この立替期間が長くなったり、
金額が大きくなったりすると、必要な運転資金は増えます。
残業代や営業インセンティブ、
増産に伴う在庫・倉庫代なども、
すべてこの立替部分に含まれます。
損益計算書には見えにくく、貸借対照表に静かに乗っているため、
経営者が気づきにくい部分です。
売上が伸びるとは、多くの場合、
この立替金額が大きくなるということです。
これが、いわゆる増加運転資金です。

パターンA/B:資金相談のタイミング

パターンA:資金が足りなくなってから、慌てて銀行に相談する経営者
パターンB:売上が伸びる兆しが見えた段階で、増加運転資金を先に相談する経営者

パターンAは、審査にも時間がかかり、条件面でも不利になりやすいです。
パターンBは、余裕を持って交渉でき、いざという時にすぐ動けます。
同じ成長でも、相談するタイミング
資金繰りの安定度はまったく変わります。

「増加運転資金」は後ろ向きな借入ではない

業績が落ちている会社に、
増加運転資金という発想は出てきません。
これは、業績が伸びている会社にしか出てこない、
前向きな資金需要
です。
「儲かっているのに、なぜお金を借りるんですか」
と感じる経営者もいますが、これは正しい順番です。
儲かった分、先に立て替えるお金が増える。
だから、その立替部分を事前に金融機関に支援してもらう。
これは事業の伸びに合わせた、自然な資金調達です。

誰も教えてくれない話だから、伝えている

この運転資金の考え方は、実はとても大切です。
でも、会計の授業でも、銀行の窓口でも、
体系立てて説明されることはあまりありません。
売上が増えるほど資金繰りが苦しくなる理由も、
支払い条件を見直せば構造そのものが変わることも、
増加運転資金という言葉の意味も。
知っていれば早めに手を打てることばかりです。
でも、知らないまま資金繰りに
振り回されている経営者は少なくありません。
だからこそ、僕はこの話を伝えるようにしています。
経営者が、この構造を理解した上で判断できる状態を作ること。
これも、税理士の大事な役割の一つだと思っています。

精緻な損益計画と、資金繰り表をつなげる

ここまでをまとめます。
取引条件を見直し、先にもらう・後で払う体制に変える。
それでも残る立替部分は、増加運転資金として
事前に金融機関へ相談する。
これに加えて、
精緻な損益計画と、それに連動した資金繰り表があれば、
いつ、いくらお金が足りなくなるかを事前に把握できます。
構造を変える。
先に相談する。
数字で見通す。
この三つが揃ったとき、
「儲かっているのにお金がない」という悩みは、
大きく解消されます。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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