言い出した人が損をする組織は、良い意見を失っている

「これ、私やってみます」
会議でそう手を挙げた人がいると、
最初はみんな「いいね」という空気になります。
でも半年後、気づくとその人だけが
その仕事を一人で抱えている。
相談も、判断も、実務も、
全部その人経由になっている。
こういう場面、
経営者や管理職の方ならよく見かけるはずです。
「あの人がやるって言ったから」
「あの人が一番詳しいから」
そう説明されることが多いのですが、
これは本人の問題とは思っていません。
組織の設計の問題です。

属人化は、悪いことではない

「属人化はよくない」
とよく言われます。
でも、これは半分しか合っていません。
得意な人が、得意なことを持ち続けるから、
仕事の効率も、出来栄えも上がる。
これは事実です。
属人化そのものが悪いわけではありません。
本質的な問題は別のところにあります。
それは、抜け道のない属人化です。
その人がいないと、仕事が止まる。
その人が倒れたら、誰も引き継げない。
得意な人が持ち続けるのはいいことです。
でも、その人しか持てない状態は、
別の問題として扱う必要があります。
この線引きは、言うほど簡単ではありません。
どこまで一人に任せて、どこから分解すべきか、
うまく判断できていない場面は多々あります。
それくらい、この設計は難しいものです。

振り方の設計が、次に手が挙がるかを決める

言い出しっぺが苦労する組織には、
共通するパターンがあります。
手を挙げた瞬間は評価されるのに、
その後の仕事の振り方が変わらないことです。
最初のアイデアを出したその人に、
実務も、調整も、トラブル対応も、
全部まとめて乗せてしまう。
本人は「言い出した責任」を感じて、
断りづらくなる。
周りも「あの人の仕事」だと思って、
手を出さなくなる。
こうなると、その仕事を持っている本人だけが、
どんどん忙しくなっていきます。
一方で、それを見ている他のメンバーは、
何を学ぶかというと、
「手を挙げたら、損をする」ということです。
次に誰かがアイデアを持っていても、
黙っておこうとする。
良い案を出せる人材が組織にいるのに、
誰も言わなくなる。

これが、この設計を放置したときに起きる、
一番もったいない状態です。

大企業は、ここを仕組みで解決している

この問題に、正面から取り組んでいる
会社もあります。
ソニーは60年近く前から、
社内公募制度を続けているそうです。
新しい挑戦をしたい社員が、
上司の許可を取らずに、
自分の意思で希望する部署やポストに
応募できる仕組みです。
これまでに7,000人を超える社員が、
この制度で異動を実現しています。
アイデアや意欲を持った個人を、
特定の部署や特定の業務に固定しない設計が、
挑戦する文化を長く支えています。
小田急電鉄も、
新規事業のアイデアを社内から定期的に募集し、
通ったものをプロジェクトとして
事業化まで進める取り組みを行っているそうです。
アイデアを出した個人がそのまま一人で
実行し続けるのではなく、
プロジェクトチームという形に変換する
という仕組みです。
規模の大きい会社ほど、
「言い出した人が一人で背負う」
という状態を、意図的に崩しています。
これは中小企業にとっても、
考え方として参考になる部分です。

制度より先に、カルチャーが必要

ただし、これは制度だけの話ではありません。
手を挙げていい、頼っていい
という空気が組織になければ、
どんな制度も使われずに終わります。
制度は入れ物、
カルチャーやミッション・ビジョンは中身です。
この空気があると何が起きるか。
「これ、こうした方がいいと思います」
という小さな意見が、
普段の会話の中で自然に出てくるようになります。
大きな企画やアイデアだけでなく、
日々の改善案や違和感も、言葉にされやすくなる。
逆に、この空気がない組織では、
良い意見を持っていても、
「言うと自分の仕事になる」
と思われた時点で、声は止まります。
制度の前に、まず声が上がる状態があるかどうか。
ここが土台になります。
ミッションやビジョンが、
挑戦を後押しする方向を向いているかどうか。
土台が揃っていない組織では、
せっかくの仕組みも機能しません。

抜け道は、外注に振ることでもつくれる

とはいえ、中小企業には、
大企業のような制度を
そのまま作る体力はありません。
そこで、もう一つ現実的な選択肢があります。
外注に渡すことです。
言い出した人が持っている仕事のうち、
専門性が高く、外に出せる部分を見極めて、
それができる外部人材や外注先を見つけて渡す。
本人はアイデアを出した人、
全体の設計をする人として残り、
実務そのものは外に出す。
最近は、国もこうした動きを後押ししています。
たとえば愛知県では、
副業・兼業のプロフェッショナル人材を
中小企業が活用する際の費用を補助する制度が
2026年度も用意されています。
中小企業が、社内で全部抱えなくても、
外の専門人材を使いやすくなってきている。
外に振るという選択肢は、
今、以前より現実的になっています。
余談ですが、経営者自身もまた、
この「言い出しっぺ」になりやすい立場です。
新しいことを始めるとき、
最初に手を挙げるのは、
だいたい経営者自身だからです。
経営者が抱えたままだと、
権限も判断も、いつまでも経営者に集中します。
任せているつもりでも、
実質は経営者が一人で回している。
ここも、本来は解決すべき問題だと思っています。

次に手が挙がったら、最初にすることは分担

言い出した人を、そのまま一人にしない。
これだけで、組織の空気は変わります。
次に誰かが「やってみます」と言ったら、
すぐに実務を全部渡すのではなく、
まずどこを本人が持ち、どこを外に出すかを、
一緒に考えてみてください。
言い出した人が最後まで一人で背負う組織では、
二人目の「言い出しっぺ」は現れません。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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