マニュアルが完成しない組織は、目指す点数を間違えている

「うちは職人技だから、マニュアルなんて作れない」
そんな声を、経営者や
管理職の方からよく聞きます。
正直、僕たちの事務所も
似たような葛藤がありました。
税務や会計の仕事は、
一件一件、状況が違います。
「マニュアル化なんてできるわけがない」
そう思っていた時期がありました。
でも、本質はそこではありません。
マニュアルの本質は、
完璧なものを作ることではなく、
10点でいいから、まず形にすること
です。

100点を目指すから、いつまでも作れない

マニュアルが作れない組織には、
共通点があります。
それは、完璧なものを作ろうとしていることです。
あらゆるケースを網羅したい。
抜け漏れがあってはいけない。
そう思うほど、着手できなくなります。
これは、経営学でいう
満足化原理という考え方に近いです。
提唱したのは、経済学者のハーバート・サイモン。
人は本来、あらゆる選択肢を比較して
最適解を選ぶわけではなく、
「十分に良い」水準で意思決定している、
という考え方です。
マニュアルも同じです。
最初から100点を目指すから、
いつまでも完成しない。
10点で出す。使いながら直す。
このほうが、圧倒的に前に進みます。

マニュアルがもたらす4つの効果

10点のマニュアルでも、
あるとないとでは大きく違います。

やるべきことが明確になる
何をすればいいかが、言語化されている状態。
これだけで、迷う時間が減ります。

到達基準が見える
どこまでできれば合格なのか。
基準がないと、本人も評価する側も、
ずっと手探りになります。

品質が保てる
担当者によって仕上がりが違う、
という状態を防げます。

属人化しない
その人がいないと回らない、という状態は、
組織にとってリスクです。
マニュアルは、そのリスクを
減らす手段になります。

作る人によって、マニュアルの穴は変わる

マニュアル作成には、もう一つ盲点があります。
誰が作るかという問題です。
初めてその仕事をする人が作ると、どうなるか。
経験がないので、当然、抜け漏れが出ます。
まだ仕事の全体像が見えていないからです。
では、仕事ができる人が作ればいいのか。
実は、こちらにも別の問題があります。
「それくらい、言わなくてもわかるだろう」
仕事ができる人ほど、こう考えて、
説明を省略しがち
です。
本人にとっては当たり前でも、
初めてやる人にとっては、
当たり前ではありません。
さらにもう一つ。
原則は丁寧に書いていても、
例外が抜けていることが多い。
「基本はこうだけど、こういうときは違う」
という、現場でつまずきやすい部分ほど、
熟練者の頭の中にしか残っていません。
つまり、初心者が作っても、熟練者が作っても、
一人で作る限り、必ずどこかに穴ができます。
結局、自分一人で作らない方が、
マニュアルは育つ
ということです。
初心者がつまずいた場所を書き足す。
熟練者が「これも言っておかないと」と例外を足す。
この積み重ねが、
10点を100点に近づけていきます。

10点から100点にする過程がカギ

マニュアルは、
一人で完成させようとしてはいけません。
10点から100点にしていく過程を、
みんなでやること
が重要です。
一人が作って、
他のメンバーに「これ通りにやって」と渡す。
これだと、メンバーは
ルールの表面しか受け取れません。
でも、ブラッシュアップの過程に
みんなが関わると、話が変わります。
「なぜこの手順なのか」
「このルールは、どんな失敗を防ぐためにあるのか」
そういう背景まで、
全員が理解することになります。
この理解があるかどうかが、次の話に直結します。

マニュアル通りにしか動けない組織になる怖さ

マニュアルには、
警笛を鳴らしておきたい面もあります。
それは、マニュアル通りにしか
動けない組織になること
です。
わかりやすい例で、
二つのパターンを並べてみます。

パターンA:ルールの表面だけを守る組織
ある店舗で「顧客に電話を貸してはいけない」
というルールを作った。
このルールだけを渡された担当者は、
緊急事態で困っている顧客が来ても、
貸すことができません。
「ルールだから」で思考が止まってしまうからです。

パターンB:ルールの背景まで理解している組織
同じルールでも、
「なぜこのルールがあるのか、
(私的利用や紛失トラブルを防ぐため、など)」
趣旨まで理解している担当者は、
違う判断ができます。
緊急時には貸す。その上で、記録を残す。
本来の目的である
顧客を大切にすることから、ぶれません。

同じマニュアル、同じルールでも、
背景を理解しているかどうかで、
行動がまったく変わります。
これは、守破離の考え方にも通じます。
まず型(マニュアル)を守る。
慣れてきたら、型を少しずつ崩してみる。
最後は、型そのものから離れて、
自分で判断できるようになる。
マニュアルは、このの部分でしかありません。
そこで思考を止めてしまうか、
破・離まで進めるか。
その分かれ道が、10点から100点にする過程に、
みんなで関わったかどうかです。

マニュアルは、思考停止の道具ではない

整理すると、こういうことです。
マニュアルがない組織は、
属人化し、品質がばらつきます。
マニュアルがあっても、
一人で完成させて渡すだけの組織は、
ルール通りにしか動けない組織になります。
マニュアルを、
みんなでブラッシュアップしながら育てる組織は、
背景を理解した上で判断できる組織になります。
同じ「マニュアルを作る」でも、
作り方と育て方で、
行き着く先はまったく違います。
うちの事務所も、
まだできているわけではありません。
それでも、10点で出すことと、
みんなで直すことは、意識するようにしています。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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