AIは、人間の拡張機能でしかない

「AIを使うと、頭を使わなくなるんじゃないか」
「判断力が落ちるんじゃないか」
そんな話を、経営者の方からもよく聞きます。
効率化のために使うのか、
どこまで踏み込んで活用するのか。
正直、まだ誰にも正解は分かりません。
ただ、僕はこの議論そのものが、
少しずれていると思っています。
本質は、AIが人の代わりをすることではなく、
AIが人の当然の一部になることだからです。

「頭を使わなくなる」論の違和感

AIをめぐる議論は、
だいたい二つの立場に分かれます。
一つは、AIに考える部分まで任せると、
人間が思考停止する
という立場。
もう一つは、AIに任せられる部分は任せて、
とにかく効率化すべき
という立場。
どちらの言い分も分かります。
でも、これはAIに限った話ではありません。
人は昔から、新しい手段が出てくるたびに、
同じような議論をしてきました。
そのことを、少し歴史を遡って考えてみます。

拡張機能は、いつも「ずるい」と言われてきた

少し極端ですが、例えば江戸時代、
名古屋から東京まで行くのは、一大事でした。
何日もかけて歩いて向かう。
無事に着けば、それだけで
ちょっとした偉業のように語られたはずです。
今は新幹線で2時間もかかりません。
「歩いてきました」と言う人は、
もういないでしょう。
そして、「新幹線を使うなんてずるい」
と言う人も、当然いません。
移動手段は、いつの間にか
人の当然の一部になったからです。
にたようなことは、税務の世界にもあります。
昔は、専門家以外の人が申告書を作ると、
それだけで驚かれました。
今は会計ソフトが普及して、
調べる手段も増えて、
その驚きはかなり薄れています。
そして今、AIを使えば、
かなりの精度で申告書のようなものが
作れてしまう時代になりました。
ここで出てくるのが、
「それ、AI使ったなら自分で作ってないよね」
という視線です。
でも、もう少し先の未来を想像してみてください。
AIを使うことが当たり前になったとき、
この「自分で作ってない」という感覚自体、
きっと消えていきます。
今感じている違和感は、
過渡期特有のものだと僕は思っています。

ホワイトカラーの仕事はなくなるのか

ここは、正直に触れておきます。
AIが進化すれば、
いわゆるホワイトカラーの仕事のかなりの部分は、
AIでできてしまう可能性があります。
これは、否定してもしょうがないと思っています。
ただ、ここでもう一度、
移動手段の話を思い出してください。
車や新幹線が当然の拡張機能になった今も、
人はランニングをします。
わざわざ自分の足で走ることに、
魅力を感じる人がいます。
100m走で、
誰が一番速いかを本気で競い合います。
手紙も、メールがあるのになくなりません。
手書きの一通に、
特別な意味を感じる人がいます。
つまり、効率と価値は、
別の軸にある
ということです。
効率化された先でも、
人がやることには、なくならない価値がある。
ここが、AIの議論で
見落とされがちな部分だと思います。

誰が言うかで、言葉の重みは変わる

ここで、今年うちの事務所のテーマにしている
信頼関係の構築という言葉と、
つなげて考えてみます。
例えば、こんな場面を想像してください。
「今の借入水準なら、
もう少し増やしておいた方が安全です」

この同じ一言を、
AIから言われた場合と、
長年その会社の数字を見てきた税理士から
言われた場合を比べてみてください。
内容はまったく同じです。
でも、受け取る経営者の中では、
起きていることが違うはずです。
AIは、正しい情報を、早く、
大量に出すことができます。
ここは素直に認めるべきだと思います。
でも、信頼関係があるかどうかは、
情報の精度とはまったく別の軸にあります。
信頼関係とは、
「この人は、自分の会社の数字だけでなく、
今の状況や迷いも分かった上で言っている」
という積み重ねのことです。
これは、一回のやり取りでは生まれません。
何度もやり取りをして、
時には外れた助言をしたこともあって、
それでも向き合い続けてきた時間の中にしか、
生まれないものです。
でも、本質は情報の正しさではなく、
同じ助言を、どれだけ自分ごととして
受け取れるか
です。
信頼関係のある相手からの助言は、
行動に変わりやすい。
信頼関係のない相手からの正しい助言は、
聞き流されやすい。
専門家の価値は、
「答えを知っていること」から、
「その答えを、行動に変えてもらえる関係を
持っていること」
に、少しずつ重心が
移っていくと僕は思っています。

人が選んでやることに価値がある

うちの事務所にも、AI活用委員会があります。
業務にAIをどう組み込むか、
日々議論しています。
ただ、正直なところ、
まだ発展途上です。
どこまでAIに任せて、
どこを自分たちが担うか。
その線引きは、僕らもまだ模索中です。
それでも一つだけ、
はっきりしてきたことがあります。
信頼関係構築という軸で見たとき、
情報を渡す部分はAIに任せられても、
その情報をどう受け止めてもらうか、
どう行動に変えてもらうかという部分は、
人にしかできません。
AIは、人の当然の拡張機能になっていきます。
移動手段がそうだったように、
会計ソフトがそうだったように。
でも、拡張された先でも、
人が選んでやることの価値は、なくなりません。
むしろ、その価値をどう作るかが、
これからの課題になると思っています。

信頼を積み重ねる、という選択

AIをどこまで使うか、使わないか。
この二択で悩む必要はないと思っています。
それより大事なのは、
どこに人の関与を残すか、
どこで信頼関係を積み重ねていくか
を、
一度自分の中で言語化してみることです。
効率化の波は、止まりません。
だからこそ、
効率化できない部分にこそ、
これからの価値が眠っている。
僕はそう思っています。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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