先日、ある税理士法人が破産したというニュースを見ました。
創業70年。負債総額1.6億円。
税理士事務所が倒産する、という話は業界でもほとんど聞きません。
廃業はあっても、倒産はほぼ聞かない。
だからこそ、最初に見たとき驚きました。
でも、もっと驚いたのは規模感を知ったときです。
スタッフ11名。売上約1.4億円。
うちは13名・開業7年。
数字が、近い。
それから少し、真剣に考えました。
数字だけ見ると「なぜ潰れたのか」がわからない
この事務所のデータを改めて見ると、
業界水準としては悪くありません。
スタッフ1人あたりの売上は約1,270万円。
会計業界では1人あたり800〜900万円を目指す事務所も多いなかで、
この数字はむしろ上位水準です。
それでも潰れた。
「なぜか」を理解するには、
表面の数字ではなく構造を分解する必要があります。
キャッシュフローを試算するとシナリオが見えてくる
以下はメディア情報をもとにして、
あくまで推定ですが、こういう試算ができます。
売上:1億4,000万円
人件費(労働分配率60%と仮定):8,400万円
その他固定費・変動費(売上の25%と仮定):3,500万円
合計費用:1億1,900万円
税引前利益:2,100万円
法人税(30%と仮定):630万円
税引後利益:約1,470万円
ここまでだと「黒字経営」に見えます。
問題は、ここから先です。
負債1.6億円を金利2%・返済期間15年で試算すると、
年間返済額は約1,236万円。
同じく10年返済なら約1,767万円になります。
15年返済なら、税引後利益1,470万円から返済を引いた
手元キャッシュは約234万円。
10年返済なら約マイナス297万円と、
キャッシュフローは赤字に転落します。
この状態で採用費の増加、スタッフの離脱、
急なトラブルが重なると、
手元キャッシュはすぐにマイナスに転落します。
なお、労働分配率60%は業界の中でも高めの水準です。
老舗事務所でベテランスタッフが多ければ、
実態はさらに高かった可能性があります。
「黒字なのに資金が足りない」。
これが、経営の本質的な怖さです。
損益計算書だけを見ていると、こういう崩壊は見えません。
倒産の正体は「固定費の構造問題」だった
では、なぜ固定費が膨らんだのか。
おそらくここに、本質的な問題があります。
ベテランスタッフが抜ける
→ 業務が回らなくなる
→ 急いで採用する
→ 固定費が跳ね上がる。
このスパイラルに入ると、
売上が横ばいでも費用だけが増え続けます。
採用や集客を外部の紹介会社に依存していると、
コストはさらに重くなります。
顧客紹介の手数料は今や年間報酬の70〜100%を
要求するケースもあると聞きます。
採用でも、年収の30〜40%を紹介会社に払うのが珍しくない。
規模が中途半端な会社が一番しんどい構造です。
固定費の構造を変え、
外部依存を減らし、
仕組みで回せる体制をつくる。
これは理想論ではなく、継続するための最低条件だと思っています。
倒産には、他の理由もあった可能性がある
数字の試算だけを見ると「この規模なら本来倒産しないはず」
という印象を受けます。
ただ、倒産の背景には他の要因が絡んでいた可能性も否定できません。
一つは税理士損害賠償リスクです。
業務上のミスで顧客から訴訟を受けるケースは、
この業界でゼロではありません。
年間報酬100万円に満たない顧問契約でも、
判断ミス一つで何千万もの賠償が発生し得ます。
もう一つは自社ビル建設などによる過大な設備投資です。
事務所の信頼感を高める目的で不動産に投資するケースもありますが、
そこで抱えた負債が経営を圧迫し続けることがあります。
いずれも確定的な情報ではありません。
ただ、倒産の原因は一つとは限らず、
複数の要因が積み重なって臨界点を超えることがほとんどです。
だからこそ、経営の数字を読んで先手を打つことが大切です。
数字のプロでも、自社の数字は見えていないことがある
この事例で考えさせられるのは、
倒産した事務所が税務・会計のプロ集団だということです。
他社の決算書を読み、経営数字を分析する仕事をしている人たちが、
自社のキャッシュフロー崩壊に気づけなかった可能性がある。
これは珍しい話ではありません。
税理士業界でも、従来の手続き業務だけを担ってきた事務所では、
自社の経営数字を精緻に管理するという発想自体が薄い場合があります。
申告書を作る仕事と、経営の数字を読んで先手を打つ仕事は、
別のスキルだからです。
経営者として必要なのは、この三つです。
・精緻な損益計画をつくる
売上・人件費・固定費・変動費を項目ごとに分解する。
労働分配率・固定費比率・1人あたり生産性
これらを月次で追いかけることで、構造的な異変に早く気づけます。
・損益計画に連動した資金繰り表をつくる
利益が出ていても、返済・税金・賞与のタイミングで
手元キャッシュは動きます。
「今月の利益」と「今月末の残高」は一致しません。
資金繰り表を損益と紐づけることで、
黒字倒産のリスクを事前に察知できます。
・予実分析でPDCAを回す
計画をつくっただけでは意味がありません。
毎月、計画と実績の差異を確認し、
なぜズレたかを分析して翌月の行動を変える。
このサイクルを回し続けることが、変化への対応そのものです。
変化を先送りにしない。数字から目を逸らさない。
どれだけ長く続いてきた会社でも、
経営は変化し続けなければ維持できません。
AI・人手不足・コスト上昇
外部環境は止まりません。
伝統は資産ですが、変化を止める理由にはなりません。
まず一つだけやってみてください。
自社の損益計画を書き出す。
そして、損益計画に連動した資金繰り表を作成する。
「利益が出ているから大丈夫」という感覚が、
数字で裏付けられているかどうか確認する。
変化を先送りにしないこと。
数字から目を逸らさないこと。
それだけが、継続の条件になりつつある時代だと思っています。
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