「困った顧客」は、「不安な顧客」かもしれない

顧客とのやりとりのあと、
つい、ぼそっと口にしてしまう。
「なんでそうなるかな」
そして、言ってからはっと気づく。
僕自身、今でもそういう瞬間があります。
人間なので、つい言ってしまうことはある。
それ自体を責めるつもりはありません。
でも、本質は言動が現実をつくることです。
何気ない一言が、自分を変え、周りを変え、
やがて顧客との関係そのものを変えていく。
今日はその話をします。

本心でなくても、口にした言葉は自分を変える

顧客とのやりとりで、少しモヤっとしたとき。
「本気で思ってるわけじゃない。ただの愚痴だよ」
そう思いながら、
つい口にしてしまうことは誰にでもあります。
でも、人は自分の言動を見て、
自分の考えを決めている
面があります。
心理学では自己知覚理論と呼ばれる考え方です。
冗談半分の文句でも、繰り返すうちに
その顧客に対する見方が、自分の中で少しずつ固まっていく。
最初は思っていなかったことが、
いつの間にか本心になっていく。
「思考は現実化する」という有名な言葉があります。
僕はそれに加えて、言動は思考になると感じています。
言葉が先で、気持ちは後からついてくる。
だからこそ、何を口にするかは軽くありません。

言葉は周りに伝染し、組織の空気になる

言葉は、自分の中だけにとどまるものではありません。
口にした瞬間、周りの人にも少しずつ届いていきます。
「またあの社長、無茶なこと言ってきて」
どこの職場でも聞こえてきそうな一言です。
言った本人は、軽い愚痴のつもりかもしれません。
でも、聞いた側には意外と残るものです。
担当ではないスタッフまで、
会ったこともない顧客を「面倒な人」だと思うようになる。
新しく入った人ほど、
「この会社では、顧客をそう語っていいんだ」と受け取ります。
これが暗黙のルールです。
誰も決めていないのに、みんなが従っている。
組織の文化、いわゆるカルチャーは、ルールブックではなく、
日々の何気ない言葉でできています。
そのカルチャーを支えるものの一つに、MVVもあると思っています。
うちの事務所では、大切にする価値観として
「誠実」「丁寧」「楽しく」という言葉を入れています。
顧客に誠実に向き合う。
一つひとつの仕事を丁寧に進める。
そして、経営を楽しく、前向きにしていく。
もちろん、完璧な人間はいません。
僕自身もそうです。
それでも、この三つを大切にしていれば、
人として成長していける。
そう思って、この言葉を入れました。
こうした想いを掲げていても、
日々の会話の中では、
つい軽い言葉が出てしまうこともあります。
大切なのは、そのときに
自分たちが大切にしたい想いや方向性を思い出せるかどうか。
普段口にしている言葉が、目指している方向とずれていないか。
MVVは、そのずれに気づくきっかけの一つにもなってくれます。

言動は現実化する

「面倒な顧客」と口にすれば、そう扱うようになります。
説明が少し雑になる。
返信が少し遅くなる。
顧客もその空気を感じ取り、不満を持つ。
そして、本当に関係がこじれていく。
「そうなるだろう」という見方は、
知らないうちに行動に表れます。
そして、その行動が、
本当にそうなる状況をつくってしまうのです。
逆もあります。
「この社長は、知らないだけかもしれない」と捉えれば、
説明が丁寧になる。
顧客も安心して相談してくれる。
関係は、少しずつ良くなっていきます。
どう語るかが、どういう関係になるかを決める。
言動は、そのまま現実になっていきます。

「脱税したい」は、本当に脱税したいのか

税理士をしていると、こんな相談を受けることがあります。
「これ、経費にしちゃえばバレないですよね?」
一瞬、身構えます。
でも、多くの場合、悪意はありません。
知らないだけか、
税金への不安が言葉になっているだけです。
節税と脱税の境目は、
僕たちにとっては毎日扱う当たり前の知識です。
でも、経営者にとっては当たり前ではありません。
むしろ、正確に知っている方が少ない。
資金繰りが苦しい。
納税額が想像より大きかった。
その焦りが、乱暴な言葉になって出てくる。
言葉の表面だけを見ると、「困った顧客」に見えます。
でも、本当は「不安な顧客」なのかもしれない。
そう捉え直すだけで、次にかける言葉が変わってきます。

相手の目線で見ると、言葉の意味が変わる

同じ相談を受けたときの対応を、二つ並べてみます。

パターンA:表面で受け取る
「また無茶なこと言ってるよ」で終わる。
ルールだけ伝えて、会話を切り上げる。

パターンB:背景を考える
「何が心配で、そう言ったんだろう」と考える。
「納税が不安なんですね。できる対策を一緒に整理しましょう」と返す。

相談の内容は同じです。
でも、顧客の受け取り方はまったく違います。
パターンAの後、顧客は相談しなくなります。
パターンBの後、顧客は信頼して話してくれるようになる。
そして、正しい知識を知れば、
多くの経営者は正しい判断をします。
顧客への愚痴が出そうになったときは、
一度立ち止まるタイミングなのかもしれません。
もしかすると、
こちらが相手の立場に立ちきれていないのかもしれない。
僕たちにとっては何度も聞いた相談でも、
社長にとっては初めての悩みかもしれません。
数字の見え方も、
抱えている不安も、立場が違えばまったく違う。
相手の目線から見直すと、無茶に見えた言葉にも、
その人なりの理由が見えてきます。

それでも、見極めは必要

とはいえ、どんな顧客も受け入れるのが正解ではありません。
線引きは、
「知らない」のか、「知った上で求めている」のかです。
僕たちは、顧客の味方でありたいと思っています。
でも、味方であることと、言われたとおりにすることは違います。
本当に顧客の立場に立つなら、
目の前の要望ではなく、顧客の会社の将来を守る判断をする。
ときには止めることも、その役割です。
それでも伝わらないなら、関係そのものを見直す。
やさしさと甘さは違います。
相手の立場に立つことと、相手に流されることも違う。
この区別をつけることも、仕事の一つです。

言ってしまったら、「なぜ」を一言添える

組織の言葉の空気は、誰か一人がつくるものではありません。
経営者も、管理職も、スタッフも。
一人ひとりの何気ない言葉が重なって、
その組織らしさになっていきます。
もちろん、立場のある人の言葉ほど、影響は大きくなります。
だからこそ、僕自身が一番気をつけたいところです。
冒頭で書いたとおり、
つい口にしてしまうことは今でもあります。
完璧にはできていません。
それでも、言ってしまったことに気づけるかどうかは大きい。
気づいたら、
「なぜ、そう言ったんだろう」を一言添えてみてください。
「たぶん、不安なんだろうな」
自分の頭の中だけでも構いません。
それだけで、見え方が変わります。
見え方が変われば、言葉が変わる。
言葉が変われば、関係が変わる。
言動は、現実になる。
だからこそ、今日の一言から変えていく価値があります


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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