最低賃金1,177円。追われる会社は生き残れない

10月に入り、今年も最低賃金が改定されました。
全国加重平均は1,177円。
56円の引き上げで、過去最大だった
昨年度の66円に次ぐ上げ幅です。
この時期、経営者の方から
よく聞く言葉があります。
「うちは最低賃金より高く払っているから、
関係ないよ」
今年だけを見れば、そうかもしれません。
でも、本質は今年の金額ではありません。
上がり続けることを前提に、
会社の形を変えられるかどうか
です。

20年の推移と、この先

まず、主な地域の金額です。
東京は1,280円。
神奈川は1,279円、大阪は1,231円、
愛知は1,195円。
最も低い宮崎でも1,085円。
東京との差は195円あるものの、
地方でも1,000円を
大きく超える水準になりました。
次に、長い目で見てみます。
20年前、2006年度の全国加重平均は673円。
20年で504円、約1.75倍です。
ただ、大事なのは上がり方の変化です。
2006年度からの10年間は、年平均約15円。
2016年度からの10年間は、年平均約35円。
直近3年間は、年平均約58円。
「たまに少し上がるもの」から
「毎年大きく上がるもの」に変わりました。
政府目標も揺れてきました。
全国平均1,500円の達成時期は、
岸田政権で「2030年代半ば」。
石破政権が2025年に「2020年代」へ前倒し。
高市政権の日本成長戦略の原案では、
「遅くとも30年代前半のできる限り早期」に。
事実上の先送りです。
では、このペースが続くとどうなるか。
毎年56円ずつなら、
1,500円を超えるのは2032年度。
毎年5%ずつなら、2031年度です。
目標が先送りされても、
今のペースのままで30年代前半には届く。
1,500円は遠い話ではなく、5〜6年後の現実です。

「関係ない」会社ほど追われる

「うちは関係ない」という会社ほど、
実は影響を受けやすい面があります。
民間の試算では、改定後の
最低賃金を下回る人の割合(影響率)は、
33.8%から42.5%に上がるとされています。
都市部か地方かに関係なく、
全国で広がっています。
見落とされやすいのが、賃金の圧縮です。
新人の時給が最低賃金に合わせて上がる。
3年働くベテランのパートさんが、ふと気づく。
「入ったばかりの子と、
ほとんど変わらないんですね」
ここから、よくある流れが始まります。
新人の時給を上げる。
経験者との差が縮む。
不満が出て、全体を少しずつ上げる。
利益が削られる。
そして翌年、また最低賃金が上がる。
きちんと対応しているつもりでも、
実際は後ろから押され続けているだけ。
これが「最低賃金に追われる経営」です。

5年後の総人件費で見る

56円と聞くと、なんとかなりそうに感じます。
だから、総額で見てみます。
仮に、パートさんが10人。
1人あたり年1,200時間(月100時間)働くとします。
今年の56円アップだけなら、
年間約67万円の増加。
これなら吸収できると思えるかもしれません。
では、5年後に時給1,500円になったら。
今より約320円高く、年間約390万円の増加。
社会保険に加入している場合は、
会社負担分(目安で15%前後)が加わり、
約450万円になります。
しかも、これは最低賃金で働く人だけの話。
賃金の圧縮で、その上の層や
正社員の給与にも引き上げ圧力がかかります。
ここで押さえておきたいのが、
人件費は固定費だということです。
一度上げた時給は、基本的に下げられません。
売上が落ちた年も、払い続けることになります。
固定費が上がれば、損益分岐点も上がります。
限界利益率(売上から変動費を引いた利益の割合)が30%の会社なら、固定費が450万円増えると、
赤字にならないために
必要な売上は1,500万円増えます。
同じ売上を維持しているだけでは、
毎年少しずつ赤字に近づいていく構造です。
経常利益が年300万円の会社なら、
利益がまるごと消える計算です。
1年ずつ見れば、少しの努力で
吸収できそうに見える。
でも、それが固定費として積み上がり続ける。
ここが一番の落とし穴だと思っています。

「少しずつ」では中小は残れない

少しだけ値上げする。
少しだけ効率化する。
何もしないよりはずっといい。
でも、毎年50円台で上がる人件費を
「少しずつ」で追いかけるのは、
5年もすれば限界がきます。
必要なのは、抜本的な改革です。
方向は大きく2つあると考えています。
1つ目は、圧倒的な利益です。
「周りに合わせた価格」から
「価値に見合った価格」へ。
付加価値で選ばれている会社は、
人件費が上がっても価格に反映できます。
価格でしか選ばれていない会社は、
上昇分をすべて自社でかぶることになります。
2つ目は、人件費の構造です。
誤解してほしくないのは、
構造改革とは人件費を削ることではない
ということです。
業務を取捨選択する。
仕組みやAI・DXで、
少ない人数でも回る形をつくる。
そこで生まれた利益を、
一人ひとりに最大限還元する。
「多くの人数×安い時給」から
「少ない人数×高い給与」へ。
最低賃金に追われる会社から、
最低賃金を気にしなくていい会社へ。
うちの事務所でも、まだ道半ばではありますが、
圧倒的な利益と、AIなどを活用して少人数で回し、
一人ひとりに圧倒的な人件費を
還元できる形を目指しています。
仕組みづくりは、思っている以上に時間がかかる。
だからこそ、追われてからではなく、
今のうちに始めておく必要があると感じています。

時給1,500円で、自社の数字を引き直す

最後に、一つだけ
やってみてほしいことがあります。
自社の人数と労働時間で、
時給1,500円になったときの
総人件費
を出してみる。
今との差額が、5年後に
毎年かかってくる固定費です。
そして、その差額を何で吸収するのかを決める。
利益なのか、構造なのか。
最低賃金は、もう「毎年の対応」
で済む話ではありません。
追われる側に回るか、
追いつかれない形をつくるか
。
その分かれ道は、5年後ではなく今にあります。
明日は、人件費の上昇や物価高が
実際にどう倒産につながっているのかを、
資金繰りの視点から書いてみます。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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