「節税の提案がない」の裏にある、本当の期待

「うちの税理士、節税の提案をしてくれないんです」
経営者の方から、
こういう話を聞くことがあります。
気持ちはよくわかります。
税金は、できれば少なくしたい。
でも、この言葉を聞くたびに
思うことがあります。
その裏にあるのは、
「税金のことだけでなく、お金のことを相談したい」
という期待なのではないか。
つまり、税理士は頼られている。
今日は、この「頼られること」の
価値について考えてみます。

節税は「何のために」がなければ意味がない

まず、前提として一つ。
税金が減れば、その分だけ得をする。
実は、そうとは限りません。
倒産防止共済、生命保険、小規模企業共済。
節税の代表例としてよく挙がるものです。
どれも、払ったお金が経費や控除になり、
その年の税金は減ります。
ただ、その多くは課税の繰り延べです。
税金がなくなったのではなく、後ろにずれただけ。
しかも、お金が長期間
使えなくなるものもあります。
今は、金利のある時代に戻りつつあります。
日銀は9月に政策金利を1.25%程度に引き上げ、
約30年ぶりの高水準になりました。
こういう局面では、
すぐに動かせる現金の価値が高くなります。
よくあるのは、こんな場面です。
決算前、利益が出そうなので保険に加入する。
翌年、大きな仕入れや採用でお金が必要になる。
でも、お金は保険の中。
解約すれば返戻金は益金になり、
時期によっては元本割れ。
結局、銀行から借りることになる。
誤解のないように言うと、
これらの制度が悪いわけではありません。
うちの事務所でも、
お客さまに提案することはあります。
退職金の準備、万一のときの備え。
目的に合えば、とても良い制度です。
本質は、「節税できるか」ではなく
「何のためのお金か」
です。
目的が合っていれば、
節税はおまけとしてついてくる。
目的がないまま節税だけで選ぶと、
使いたいときにお金がない。
本当に考えたいのは、
「今あるお金を、どう使い、
どう残し、どう増やすか」
。
僕はいつも、手元の現預金は
固定支出の6か月分
を持っておくようお伝えしています。
節税のためにここを削ってしまうのは、
本末転倒です。

税理士に期待されているのは「お金の相談相手」

もう一つ、
知っておいていただきたいことがあります。
税務の専門知識と、
資産運用の専門知識は別物
です。
税理士資格があるからといって、
あらゆる運用商品や資産形成に
詳しいわけではありません。
だから、節税提案がないことだけで
「何も考えてくれていない」とは言えません。
よくわからない商品を安易に勧めないのは、
むしろ誠実さの表れかもしれません。
ただ、税理士側も「それは専門外です」
で終わっていいのか。
お客さまは、税金だけを
切り離して考えているわけではありません。
事業のお金も、家族の生活も、子どもの教育も、
将来の備えも、全部つながっています。
決算の打ち合わせをしていると、
ふと「来年、子どもが私立に進学するんです」
「そろそろ家を建てたくて」
という話が出ることがあります。
その瞬間、話はもう税金だけでは
なくなっています。
税理士がすべてに答えることは難しいです。
でも、会社と経営者のお金の流れを
一番よく知っているのは税理士です。
だからこそ、お金の全体像を整理し、
必要に応じて専門家につなぐ
。
この役割は担えるはずです。

頼られることは、価値になる

ここで考えたいのは、
「どこまで対応するか」という
線引きの話ではありません。
本質は、頼られること自体が価値
だということです。
「こんなこと聞いていいのかな」
という相談が来るのは、
信頼関係があるからです。
信頼は、一朝一夕には積み上がりません。
何年もの対応の積み重ねで、
ようやくできるものです。
ところが、この価値はつい「ついで」の
無償対応になりがちです。
打ち合わせの最後に、少しだけ相談に乗る。
電話で、ちょっとした質問に答える。
一つひとつは小さくても、
積み重なると大きな時間になります。
無償の「ついで」のままだと、続きません。
忙しくなれば、真っ先に削られる。
質を上げるための時間もかけられない。
結果として、せっかくの信頼に
応えきれなくなります。
だからこそ、
信頼してもらえる立場にあるなら、
その価値をきちんと対価に反映する
。
この利益設定が大切だと思っています。
値段を上げたいという話ではありません。
頼られたときに、しっかり時間をかけて
応えられる。
必要なら、信頼できる専門家に
つなぐ手間も惜しまない。
そのための余力を、
利益として確保しておくということです。

コストが上がる前提で、設計する

もう一つ、見落とせないのが
これから先のコストです。
2026年度の最低賃金は、
全国加重平均で56円増の1,177円になり、
過去最高だった前年度の66円増に次ぐ
引き上げ幅になりました。
政府は2030年代半ばまでに
全国加重平均1,500円を目標に掲げています。
最低賃金だけではありません。
最低賃金が上がれば、
その上の給与水準も押し上げられます。
採用も厳しくなり、人件費全体が上がっていく。
物価も上がる。
システムや家賃などの固定費も、
じわじわ上がっていく。
これは、もう容易に想定できる未来です。
今の利益がぎりぎりなら、
数年後には赤字になりかねません。
そうなってから値上げをお願いしても、
お客さまにとっては唐突です。
だから、今の価格は、
将来のコスト上昇も見越して設計しておく
必要があります。
うちの事務所では、人件費は削るものではなく、
できる限りスタッフに還元するもの
だと考えています。
そのためにも、利益が要る。
信頼に応え続けるためにも、
人に還元し続けるためにも、利益が要る。

ここを曖昧にしたままでは、
結局お客さまのためにもなりません。

「ついで」を、価値に変える

これは、税理士だけの話ではないと思っています。
経営者の皆さんの会社でも、
お客さまから頼られて、
無償で対応していることはないでしょうか。
それは、お客さまが
価値を感じている証拠かもしれません。
その価値を、きちんと対価に反映する。
数年先のコストまで見越して、利益を設計する。
それが、信頼に応え続けるための土台です。
そして、税理士との付き合い方も
少しだけ変えてみてください。
「何か節税ないですか?」ではなく、
「このお金、何のために
残しておくのがいいですか?」
その一言で、会話は「税金の話」から
「お金の話」に変わります。
頼る側と、頼られる側。
その関係が、お互いにとって
価値のあるものになっていくはずです。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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