節税した決算書は、M&Aで安く値付けされる

「うちの会社、売ったらいくらくらいになりますかね?」
経営者の方から、こんな質問をいただくことがあります。
多くの方は、決算書の純資産を見て
「だいたいこのくらいかな」とイメージされています。
でも、M&Aの場では、決算書はそのまま使われません。
一つひとつ、実態に直されていきます。
そして、節税を頑張ってきた会社ほど、
思わぬ説明を求められることがある。
でも、本質はもっとシンプルです。
決算書は、会社の値札になる。

決算書は会社の「値札」になる

中小企業のM&Aで株価を考えるとき、
よく使われる考え方の一つが
「時価純資産+営業権」です。
時価純資産は、資産と負債を
今の実態の価値に直した差額。
営業権は、会社の稼ぐ力。
ざっくり言えば、営業利益の数年分です。
たとえば、時価純資産5,000万円、営業利益2,000万円。
営業権を3年分と見れば、
5,000万円+2,000万円×3年=1億1,000万円。
算定方法は他にもありますし、
年数も業種や案件によって変わります。
ただ、この考え方を知っておくだけで、
決算書の見え方は大きく変わります。
BSが「今ある価値」。
PLが「これから稼ぐ力」。
この二つが、そのまま値札になるわけです。

買い手は、決算書をそのまま信じない

中小企業の決算書の多くは、
税金を計算するために作られています。
だから、簿価と実態がズレていることがある。
何年も動いていない在庫。
もう回収できない売掛金。
解約したらいくら戻るのかで見直される保険積立金。
こうした項目を一つずつ、
簿価から時価へ組み替えていきます。
この組み替えは、要するに
「今、何かあったら、会社にいくら残るのか」
を確認する作業です。
社長が急に倒れたら。
事業をたたむ判断をしなければならなくなったら。
そのとき、会社に本当に残るお金はいくらなのか。
だからこれは、M&Aをする会社だけの話ではありません。
売る予定がなくても、経営者が知っておくべき数字です。

BSには「説明が必要なお金」がある

例えば会社の数字で見られやすいのが、
会社と役員のお金です。
まず、役員貸付金。
会社から社長にお金を貸している状態です。
帳簿上は資産ですが、
返済の実態がなければ、資産として見てもらえません。
金融機関の評価でも同じです。
次に、役員借入金。
こちらは逆で、社長が会社にお金を貸している状態。
M&Aでは扱いを決めておく必要があります。
返済するのか、放棄するのか、買い手に引き継ぐのか。
放棄すれば、会社側に利益が出て
税金がかかることもあります。
金融機関では資本に近いものとして見てもらえることもあるので、
同じ科目でも、見る人によって意味が変わります。
他にも、中身の説明できない仮払金や滞留在庫。
積み重なると「この会社のBSは信用できるのか」
という目で見られます。
当たり前の話に聞こえるかもしれません。
でも、BSを理解していないと、落とし穴はこれだけではない。
PLは毎月見ていても、BSはほとんど見ていない。
そんな経営者の方は、実は少なくありません。

決算書に載っていない負債も見られる

もう一つ、見落とされやすいのが
簿外債務です。
未払いの残業代。
未納の社会保険料。
将来支払う予定の退職金。
会社としてしている保証。
リース契約の残り。
買い手は必ず探しに来ます。
載っていないのに、なかったことにはならない。
見つかれば値引きの対象になり、
内容によっては話そのものが止まります。
そしてこれも、M&Aをしなくても同じです。
簿外債務は、いつか必ず表に出てくる。
そのとき初めて気づくのが、一番まずいです。

節税は悪くない。でも、説明が必要な決算書になる

PLについても、買い手は利益をそのまま使いません。
相場より高い役員報酬や、事業と関係の薄い経費を足し戻して、
「本当はいくら稼げる会社か」に直します。
これを正常収益力
といいます。
なら、節税で利益を抑えても大丈夫なのか。
半分は正しい。でも、半分は違います。
節税そのものは悪いことではありません。

会社の価値を決めるのは、結局のところ
本業でどれだけ稼げているかです。
ただ、算定上は利益が減れば、値付けは低く出る。
これは間違いありません。
足し戻してもらうには、買い手に対して
「本当はもっと稼げる会社です」と説明する必要が出る。
つまり、最初の値札が低いところから交渉が始まるのです。
税務では「利益をどう抑えるか」を考える。
でもM&Aでは「この会社がどれだけ稼げるか」を買い手に説明する。
向いている方向が、真逆なんです。
そして、買い手は安く買いたい側です。
足し戻せるはずの利益でも、
説明が曖昧なら「そこは認められません」と言われる。
不透明な部分があれば、リスク分を差し引かれる。
同じ実力の会社でも、
説明しやすい決算書かどうかで、交渉の立場は変わります。
節税で稼ぐ力そのものが下がるわけではありません。
でも、企業価値を説明するハードルが上がる。
ここが、M&Aの決算書で一番大事なポイントです。
普段はどうしても「今期の税金をどう減らすか」
という部分に向き合う時間が長くなります。
ただ、その決算書が将来どう読まれるのかまで
一緒に考えられているか。
ここは僕自身も、まだ意識して取り組んでいるところです。

決算書を一度「買い手の目」で読む

直近の決算書を、一期分だけ開いてみてください。
自分が買い手だったらと考えて、
BSを上から順に見ていく。
「この数字、今いくらの価値がある?」
「この科目、中身を聞かれたら説明できる?」
「ここに載っていない負債はない?」
すぐに答えられない数字に、印をつける。
それが、あなたの会社の
値札を下げているかもしれない場所です。
売る予定がなくても、この作業は無駄になりません。
会社の本当の体力が見えるからです。
決算書は、税務署に出すためだけのものではない。
その視点を一つ持つだけで、
毎月の数字の見え方が変わってきます。


YouTube「にいみ税理士のお悩み相談室」

YouTube / にいみ税理士のお悩み相談室

日々の会計・税務・経営支援の現場でよくあるお悩みを解決!
さらに、節税のポイント、資金繰り、事業計画のヒントなどをわかりやすく解説しています。
気になる方は、ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします!

よかったらシェアお願いします
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

目次