退職金の仕組みを知らないまま経営していませんか

「退職金って、税金かからないんですよね?」
こういう質問を、経営者からよく受けます。
答えは「半分正しい」です。
退職金は確かに税制上かなり優遇されています。
でも、知らないまま使うと損をする仕組み
でもあります。
退職金は、経営者にとって最後の大きな手段です。
その仕組みを知っておくだけで、
今日の役員報酬の設定や、
出口の考え方が変わってきます。
難しい話ではありません。
今まで、起業した経営者を多く見てきましたが、
退職金をきちんと設計している人は、
本当に少ないです。
「先の話だから」という感覚があるのはわかります。
でも、退職金の設計は
今の役員報酬の設定と直結しています
先の話ではなく、今日の話です。

退職金が「税金に有利」な理由

退職金に対する税金の計算は、
給与や配当とはまったく別の仕組みです。
まず、退職所得控除が大きい。
勤続年数に応じて、
以下の計算式で控除額が決まります。

20年以下:40万円 × 勤続年数
20年超:800万円(=40万円×20年)+ 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

勤続30年なら、
800万円+70万円×10年=1,500万円
が控除できるので非課税
になる計算です。
さらに、控除後の金額を
さらに1/2して課税します。
給与や配当ならほぼ全額が課税対象
になるところを退職金は控除して、
さらに半分にした金額にしか税金がかかりません。
これが、退職金が「税金に有利」
と言われる理由です。
会社が生み出した利益を
経営者個人が受け取る方法はいくつかあります。 役員報酬・配当・退職金
この中で最も税効率が高いのが、退職金です。
会社への貢献を、
最も有利な形で回収できる手段
でもあります。

出口によって、退職金の使い方は変わる

以前の記事で、出口は4つある
という話を書きました。
廃業・M&A・事業承継・上場

以前の記事↓

「経営の出口を決めないまま走っていませんか」
この出口の違いによって、
退職金をどう使うかもまったく変わってきます。
日本の中小企業の大半は、オーナー企業です。
経営者自身が株主であり、
経営の意思決定者でもある会社のことです。
このオーナー企業において、出口の問題は
経営者個人の資産設計と直結しています。
親族に承継できれば、まだ選択肢はあります。
でも現実は、後継者がいないケースも多い。
だからこそ、出口の形にかかわらず、
会社への貢献を退職金という
優遇された手段で回収しておく
という発想が重要になります。
M&Aを考えているなら
売却前に役員退職金を支給して
利益を圧縮することができます。
ただし、M&Aの売却価格は
会社の利益をもとに決まります。
退職金で利益を削りすぎると
売却価格も下がるので、
タイミングと金額の設計が重要です。
事業承継を考えているなら
退職金は株価を下げる手段としても機能します。
退職金を支給して純資産を減らすことで、
株価を引き下げる効果があります。
後継者への移転コストを抑えるためにも、
有効な手段です。
廃業を考えているなら
最後に残った純資産を退職金として
処理することが現実的な選択肢になります。
キャッシュを個人に移す手段として、
税効率が最も高い方法のひとつです。

役員退職金の計算ルール

役員退職金の金額は、
法律で上限が決まっているわけではありません。
ただし、過大な金額は税務上否認されるリスク
があります。
実務上の基準として広く使われているのが、
功績倍率方式です。

最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

功績倍率は、社長クラスで
概ね3倍程度が目安とされています。
たとえば、最終月額報酬100万円・
勤続20年・功績倍率3.0なら、
100万円 × 20年 × 3.0=6,000万円
が一つの目線になります。
ここで重要なのは、最終月額報酬が
退職金の上限に直結する
という点です。
役員報酬を長年低く設定していると、
退職金の限度額も低くなります。
退職金の設計は、
今日の役員報酬の設定と切り離せません。
「役員報酬は低めに抑えている」
という経営者は多いですが、
その判断が将来の退職金の上限を決めている
ことを意識している人は
あまり多くないのが実情です。

死亡退職金と、見落としがちな落とし穴

生前に退職金を受け取らないまま亡くなった場合、
死亡退職金として遺族に支給することができます。
計算方法は生前退職と同じ功績倍率方式です。
この原資として、
法人契約の生命保険を活用することが
実務上よく使われる方法です。
ただし、ここに見落としがちな
落とし穴があります。
保険金が多額に入っても、
退職金として出し切れないケースがある
のです。
役員報酬が低ければ、功績倍率方式で計算できる
退職金の上限も低くなります。
保険金は会社に入ってくるのに、退職金として
遺族に渡せる金額には限界がある。
余ったキャッシュは会社の純資産として残ります。
さらに、非上場株式を相続した相続人が
納税資金を用意できない
という問題もあります。
オーナー企業の株式は、
それなりの評価額になっていることがあります。
でも非上場株式は、すぐに現金化できません
相続税の納税期限は原則10か月
株があっても、現金がなければ払えない。
だからこそ、
保険の金額・役員報酬の水準・退職金の上限など
色んな要素を整合させた設計が必要になります。

退職金設計、今日考えておくこと

難しいことは何もありません。
今日一つだけ考えてみてください。
自分が会社を離れるとき、
いくら退職金を受け取れるか。
功績倍率方式で、
今の役員報酬と勤続年数から逆算してみる。
その金額が、自分の描く
出口と整合しているかどうか。
ここに違和感があれば、役員報酬の設定
見直すタイミングかもしれません。
保険に加入している場合は、
原資と退職金の上限がかみ合っているかどうかも、
一度顧問税理士と確認してみてください。
会社を起こして、長年かけて積み上げてきた功績。
それを最も有利な形で回収できるかどうかは、
今日の設計にかかっています。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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