売上目標は手段。プルデンシャル問題に学ぶ「何のために」

2026年10月9日、金融庁が
プルデンシャル生命に
一部業務停止命令を出しました。
保険の新規販売が、来年1月末まで止まります。
ニュースを見て、「保険会社の特殊な事件だな」
と感じた方も多いと思います。
でも、この問題は、
目標を追うすべての組織に通じる話です。
本質は、数字を追ったことではありません。
数字から「何のために」と「その先どうなるのか」
が切り離されたことです。

何が起きたのか、何が問題だったのか

問題が明るみに出たのは今年1月。
社員や元社員が、架空の投資話などで顧客から
お金をだまし取ったり、
不適切に借りたりしていました。
外部の弁護士による報告書では、
被害額は申告ベースで約61億円。
157人が処分され、
そのうち64人が解雇されています。
会社は2月から新規販売を自粛していましたが、
今回の命令で、営業できない期間は
ほぼ1年に及びます。
生命保険会社への業務停止命令は、
2019年のかんぽ生命以来です。
問題点は、大きく四つあると思っています。
一つ目は、評価・報酬制度。
報告書は、新規契約の獲得を過度に評価する
報酬制度が問題だったと指摘しています。
二つ目は、顧客との関係の密室化。
担当者とお客さんの間だけで完結し、
組織から中が見えない関係になっていました。
三つ目は、「個別の問題」として扱い続けたこと。
不正が繰り返されていると知りながら、
長年、抜本的な手を打ってこなかった。
四つ目は、経営陣の監督不足。
金融庁は、販売自粛中でさえ
社員の行動を把握しきれていなかったと
指摘しています。
中でも根っこにあるのは、評価制度だと思います。
評価制度は、組織が何を大事にしているかを、
一番正直に語るメッセージです。
どれだけ「お客さまのため」と掲げても、
評価されるのが新規契約の数なら、
社員はそれを会社の本音として受け取ります。

定量的な目標は、組織に欠かせない

ここで誤解のないように書いておきます。
数字の目標が悪いとはまったく思っていません。
むしろ、売上目標のような定量的な目標は、
組織に欠かせないものです。
数字がなければ、今どこにいるのか。
目標まで何が足りないのか。
それが分からなくなります。
そして、数字があるからこそ、人は逆算できます。
目標まであといくら必要か。
そのためには、何を、いつまでに、
どう動けばいいのか。
数字があると、指示を待たずに
自分で考えて動くようになる。
今までにないやり方を試す、創造も生まれます。
「頑張ろう」だけでは、頑張り方がそろいません。
定量目標は、
自主的な行動を引き出す起点になるのです。
うちの事務所も、売上目標を掲げています。
毎年の経営方針発表で、
スタッフの前で数字を宣言しています。
数字は、組織が同じ方向を向くための
共通言語です。
ただし、一つだけ
押さえておきたいことがあります。
定量目標は、あくまで手段だということです。

数字が目的になった瞬間、手段は選ばれなくなる

問題は、手段であるはずの数字が、
目的にすり替わってしまうことです。
経済学には、グッドハートの法則と
呼ばれる考え方があります。
「指標が目標になると、
それは良い指標ではなくなる」
。
新規契約の数は、本来、
どれだけお客さんの役に立てたかを
測る指標のはずでした。
でも、数字そのものが目的になると、
話が変わります。
契約が取れれば、手段は問われない。
そういう空気が生まれます。
金融庁の検査では、
終身保険を希望したお客さんに
変額保険を契約させるなど、
意向に沿わない販売が約4,000件見つかった
とも報じられています。
詐取のような犯罪だけでなく、
ふだんの営業でも、
「数字のため」が「お客さんのため」を
上回っていた
わけです。
これは、中小企業でも他人事ではありません。
たとえば、月末の営業会議。
共有されるのは、今月の売上と件数だけ。
「どうやって取ったか」
「お客さんにとってどうだったか」
は誰も聞かない。
そんな状態が続くと、
数字だけが一人歩きを始めます。

「何のために」と「達成するとどうなるのか」をセットで語る

ドラッカーは、
企業の目的は顧客の創造であると言いました。
売上や契約数は、目的ではありません。
お客さんの役に立った結果として、
ついてくるもの
です。
だから、数字の目標を伝えるときには、
二つの問いをセットにする必要があります。

・何のために、この数字を目指すのか
・達成すると、お客さん・スタッフ・会社はどうなるのか

この二つは、経営していくうえで
最も大切なことだと思っています。
数字は、状況が変われば見直すことができます。
でも、「何のために」と「その先」がぶれると、
組織は判断の拠りどころを失います。
迷ったときに立ち返る場所があるかどうか。
それが、数字に飲み込まれる組織と、
数字を使いこなす組織の差です。
定量目標だけでも、
会社は大きくなるかもしれません。
でも、それだけでは長続きしない。
数字を追うだけの毎日では、
働く人がやりがいを感じにくいからです。
人は、意味のある仕事のために力を出します。
「その先」が見えると、数字はただのノルマから、
目指したい未来の目印に変わります。
そして、その先を思い描けば、
お客さんを傷つけて達成した数字に意味がない
ことも、自然と分かります。
うちの事務所では、数字の先に
「少人数で回して、一人ひとりに最大限還元する」
という姿を置いています。
売上目標は、そこにたどり着くための目印です。
ただ、この「何のために」と「その先」を
組織として共有できているかというと、
まだまだ道半ばです。

目標の数字に、「何のために」と「その先」を一言ずつ添える

難しいことは必要ありません。
次に目標を伝える場面で、
数字と一緒に一言ずつ添えてみてください。
「この数字は、〇〇のために目指す」
「達成できたら、〇〇になる」
会議でも、朝礼でも、メールでも構いません。
数字は、組織を前に進めます。
でも、数字だけでは、
組織の進む方向までは決まりません。
数字と「何のために」と「その先」。
この三つがそろって、
はじめて目標は組織を強くするのだと思います。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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