トップだけが考える組織は、判断の質が落ちていく

「結局、全部自分が決めないと回らないんですよ」
経営者や管理職の方から、
よく聞く言葉です。
理由を聞くと、
「社員が自分で考えてくれない」
という話になることが多い。
でも、僕はそう思っていません。
考えない社員がいるのではなく、
考えなくていい組織になっている。
そういうケースがほとんどです。

「指示待ち」は、つくられている

メンバーが相談に来る。
上司がすぐに答えを出す。
その通りにやると、うまくいく。
一見、何の問題もない光景です。
でも、これが続くと何が起きるか。
メンバーは「考えるより、聞いたほうが早い」と学びます。
自分なりに考えて提案しても、
最後に上司がひっくり返すなら、なおさらです。
つまり指示待ちは、
やる気の問題ではなく、
合理的な学習の結果です。
経営学に、マグレガーのX理論・Y理論という考え方があります。
X理論は「人は放っておくと怠ける。だから管理が必要」という前提。
Y理論は「人は任されれば、自ら考えて動く」という前提。
マグレガーは、管理する側がどちらの前提に立つかによって、
人の行動そのものが変わると指摘しました。
前提が、行動をつくる。
「うちの社員は考えない」と思って答えを渡し続ければ、
本当に考えない組織ができあがります。

本質は「考える役割」の独占

一見、メンバーの能力の問題に見えます。
でも、本質は
「考える役割」をトップが独占していることです。
現場のことなら、なおさらです。
お客様と日々接しているのは現場です。
小さな変化や違和感に最初に気づくのも、現場です。
その領域では、
トップより詳しい人の考えのほうが正しいことが多い。
それでも最後にトップが決め直す組織では、
「どうせ決めるのは上だから」と、
気づいても言わなくなってしまいます。
組織や経営のことも同じです。
トップだけが考えると、どうしてもズレが生まれます。
トップは理想が高いからです。
目指す姿が高いこと自体は、悪いことではありません。
でも、現場の実感と切り離されたまま計画を立てると、
「言っていることはわかるけど、現実的じゃない」
という空気が生まれ、施策が根づかない。
メンバーの視点が入ることで、
理想と現実の距離がちょうどよく縮まります。
そしてもう一つ。
トップにも、得意不得意があります。
すべてを一番うまく考えられる人は、
トップであっても存在しません。
数字に強い人、人の気持ちに敏感な人、
仕組みをつくるのが上手な人。
得意な部分を、得意な人に任せる。
それができたとき、
組織の力は最大化します。
逆に言えば、
トップだけが考え、決断する組織は、
どれだけトップが優秀でも、
規模が大きくなるほど、判断の質が落ちていくのです。

責任感の強いトップほど、陥る落とし穴

とはいえ、トップが考えるのをやめればいい、
という話ではありません。
方向性を定めること。
最終的な決断をすること。
これはトップにしかできない、大事な役割です。
だからこそ、落とし穴があります。
「トップとして、答えを出さなければ」
「自分が一番わかっていなければ」
責任感の強い人ほど、そう考えます。
そして、相談される前から答えを用意し、
メンバーが迷う時間をとらずに結論を伝えてしまう。
僕自身も、気を抜くと先に答えを出したくなります。
そのほうが早いし、楽だからです。
少し逆説的ですが、
少し頼りないくらいのトップのほうが、
周りが考えて動く組織になることもあります。
「社長に聞いてもはっきりしないから、自分たちで考えよう」
そんな空気が、結果的に人を育てる。
もちろん、正解はありません。
ただ、トップが完璧であろうとするほど、
メンバーの出番は減っていく。
この構造は、知っておいて損はないと思います。

決める範囲を渡す

では、どうすればいいのか。
最終的な方向性や大きな判断は、トップが決める。
ただ、そこに至るまでの考えるプロセスは、メンバーと共有する。
そのうえで欠かせないのが、権限と役割です。
「もっと自分で考えて」と言うだけでは、人は動けません。
どこまで自分で決めていいのかが見えなければ、
結局はトップに確認するしかないからです。
参考になるのが、リッツ・カールトンの事例です。
同ホテルでは、スタッフが上司の承認なしに、
一定額までを、お客様への対応や問題解決に使えるとされています。
お客様一人につき1日2,000ドルまで、という話はよく知られています。
この仕組みのポイントは、
トップが決めているのは「範囲」だけだということです。
その範囲の中では、目の前のスタッフが自分で判断し、決める。
つまり、範囲を明確にすれば、
「決める」ことも役割として渡せるわけです。
部署ごと、人ごとに、どこまで任せるのかを言葉にしておく。
トップが手放すのは、責任ではありません。
現場で決めていいことを、先に示しておくことです。

答える前に、一つ問い返す

考える組織は、最初は遅くなります。
説明する時間も、待つ時間も、やり直しも増える。
トップが答えを出したほうが、短期的には確実に早い。
でも、考える人が増えた組織は、
やがてトップがいなくても回る組織になります。
長い目で見たとき、この差は大きい。
次にメンバーから
「これ、どうしたらいいですか」と相談されたら、
答えを言う前に、一度だけ聞いてみてください。
「あなたなら、どうする?」
すぐに答えが返ってこなくても大丈夫です。
少し待つ。
その数秒が、考える役割と決める役割を
メンバーに渡す第一歩になります。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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