少し前、ある経営者と話していて、
ハッとする場面がありました。
その方は飲食店を数店舗経営されていて、
数年前からPOSレジをクラウド型に切り替え、
売上データをリアルタイムで確認できる仕組みを作っていました。
スタッフのシフト管理もアプリで完結。
バックオフィス業務をかなり効率化している印象でした。
一方で、同じ飲食業の別の経営者は、
いまだに売上集計をエクセルで手入力していました。
「うちはそこまで大きくないから」とおっしゃっていたけれど、
店舗規模はほぼ同じです。
差があるとしたら、規模でも業種でもなく、
ITに向き合う姿勢だけでした。
でも、本質は「ツールを使っているかどうか」ではありません。
「ITを自分ごとにできているかどうか」、姿勢の問題です。
ITの波は、何度も来ている
振り返ると、経営者にも士業にも、
ITの波は繰り返し押し寄せています。
クラウド会計の普及。
電子帳簿保存法の義務化。
そして今、AI。
そのたびに、現場では同じことが起きます。
「使う側」と「使われる側(振り回される側)」に、
静かに分かれていく。
うちの事務所でも、マネーフォワードをはじめとする
クラウド会計ツールに早い段階から特化する方針を取りました。
その結果として感じているのは、
クラウド会計を前提としてビジネスを動かしている
若い経営者や成長途上の会社と仕事をする機会が、
以前より確実に増えてきているということです。
特定のツールを選んだからというより、
「新しいものを取り入れる姿勢」が、
同じ姿勢を持つ人を引き寄せるのだと思っています。
電帳法の対応も同じでした。
「また余計な対応が増えた」と感じた事務所と、
「これを機に書類フローを整理しよう」と動いた事務所。
対応は同じ義務でも、その後の業務効率に差が出ました。
使う側は、新しいツールを見て
「これは何に使えるか」と考えます。
使われる側は、新しいツールを見て
「また覚えないといけないのか」と感じます。
そのたびに、じわじわと差がついていきます。
データが示す「二極化」の現実
これは肌感覚だけの話ではありません。
中小企業基盤整備機構の2024年調査によると、
DXに取り組んでいる中小企業のうち、
「成果が出ている」または「ある程度成果が出ている」
と回答した企業は81.6%にのぼるそうです。
取り組んだ企業の大半は、何らかの手応えを感じているのです。
一方で、日本企業は「攻めのデジタル活用」が不足しており、
デジタル化の目的も不明確な割合が高いというデータもあります。
つまり、取り組んでいる企業と取り組んでいない企業の間で、
二極化が進んでいると言えます。
さらに、DXを推進する部署や担当者がいる企業は、
そうでない企業と比べて取組状況が明らかに進展しており、
推進担当の有無による影響が大きいことも示されています。
誰かが「これは自分ごとだ」と思って動くかどうか、
それだけで組織全体の動き方が変わるのです。
「使われる側」に共通するパターン
使われる側になりやすい人には、
共通した思考パターンがあります。
「義務だから、しぶしぶやる」
法律で決まったから対応する。罰則があるから動く。
でも、それだけでは最低限の対応で終わります。
そこから先に進みません。
「誰かがやってくれる」
スタッフに任せればいい。税理士が教えてくれるだろう。
他人任せにしているうちに、自分が一番わかっていない状態になります。
経営者自身がITの全体像を把握していないと、投資判断も後手に回ります。
「自分にはまだ早い」
もう少し普及してから。もっと使いやすくなってから。
様子を見ているうちに、差は広がります。
正直に言うと、うちの事務所でもAIの活用はまだ道半ばです。
「これで十分使えている」とは言えない部分があります。
それでも、AI推進委員を発足したり、
「使えるかどうかわからないけど、まず触ってみる」という姿勢は、
意識して持ち続けています。
「使う側」の姿勢とは何か
「使う側」になるというのは、完璧に使いこなすことではありません。
「これは何に使えるか」と問い続けることです。
クラウド会計が出たとき、「入力が楽になる」で終わらず
「経営数字をリアルタイムで見られる」と気づいた経営者がいました。
電帳法対応のシステムを入れたとき、「法対応が終わった」で終わらず
「経費精算のフローを根本から見直せる」と動いた会社がありました。
AIが出てきた今、「文章が書ける」で終わらず
「どの業務に組み込めるか」を考えている経営者がいます。
デジタル化を進める際に、目的なく進めたために
うまくいかなかったという事業者も多いという指摘があります。
ツールを入れることが目的になってしまうと、
使いこなせないまま終わる。
大事なのは、「何のために使うか」という問いを
経営者自身が持ち続けることです。
ツールは変わります。
でも、姿勢は変わりません。
新しいものに触れたとき、可能性を探すか、負担を感じるか。
その違いが、数年後の差になります。
経営者が「使う側」の姿勢を持つと、組織も変わります。
トップが積極的に使い始めると、スタッフも動き出す。
「うちの会社はそういうものを取り入れていく」という空気ができる。
それが、じわじわと組織の地力になっていきます。
今日から始められること
大がかりなシステム導入は必要ありません。
今日、一つだけやってみてください。
気になっているITツールやAIサービスを10分だけ触ってみる。
使いこなす必要はありません。
「何ができるか」を知るだけでいいと思います。
完璧に理解してから使おうとすると、永遠に始まりません。
ITの波は、これからも続きます。
そのたびに、使う側に回り続けられるかどうか。
それを決めるのは、ツールの難しさではなく、自分の姿勢です。
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