「賃上げしたいけど、正直うちには厳しくて」
こういう声を、経営者の方からよく聞きます。
気持ちはある。
でも、数字がついてこない。
政府からは「賃上げしろ」と言われ続ける。
でも、僕が気になるのは別のことです。
同じような規模、同じような業種なのに、
賃上げを続けている会社がある。
差はどこにあるのか。
本質は、気持ちの差ではなく、
財務の設計の差です。
賃上げのプレッシャーは、年々強くなっている
数字で見ると、状況は明らかです。
全国の最低賃金の加重平均は、
2025年時点で1,121円。
政府は2030年までに1,500円
を目指すとしており、
上昇トレンドはまだ続きます。
さらに、大企業の賃上げ率も影響します。
2024年の春闘では、
大手企業の賃上げ率は平均5.1%と、
33年ぶりの高水準を記録しました。
採用市場では、大企業との待遇差が広がれば、
中小企業はますます人が採りにくくなります。
賃上げは「やりたいか・やりたくないか」
の話ではなく、
会社を存続させるための条件
に変わりつつあります。
賃上げできない会社がやっていること
賃上げがうまくいかない会社には、
共通したパターンがあります。
「売上が増えれば何とかなる」と思っている。
粗利ではなく、売上だけを見ている。
商品別・取引先別・部門別の利益を
把握していない。
人件費を、販管費の一項目としか見ていない。
つまり、利益を「結果として残るもの」
として捉えているのです。
だから、賃上げをすると利益が消えます。
賃上げに耐えられる会社は、順番が逆です。
賃上げの原資は「粗利」から生まれる
人件費の出どころは、売上ではありません。
売上から原価を引いた「粗利」です。
売上が大きくても、粗利が薄ければ
賃上げの余地はない。
逆に、売上が小さくても、
粗利率が高い会社は動けます。
たとえば、売上1億円の会社が2社あったとします。
A社:粗利率30% 粗利額3,000万円
B社:粗利率60% 粗利額6,000万円
同じ売上でも、賃上げの「原資」は倍違います。
ここで終わらず、
もう少し踏み込んで見てください。
この2社が来期、
それぞれ売上を1,000万円伸ばしたとしましょう。
A社の粗利増加:1,000万円 × 30% = 300万円
B社の粗利増加:1,000万円 × 60% = 600万円
同じ努力で売上を伸ばしても、
手元に残る原資は倍違います。
次に、人件費が年間500万円増えた
場合を見てみます。
A社:粗利3,000万円 → 人件費500万円増 → 粗利の16.7%が消える
B社:粗利6,000万円 → 人件費500万円増 → 粗利の8.3%が消える
A社にとっての500万円の重さと、
B社にとっての500万円の重さは、
まったく違います。
最低賃金が上がり続ける今、この構造の差が、
賃上げできる会社とできない会社を分けています。
売上を追いかける前に、
まず自社の粗利率がいくらかを確認してください。
そこが出発点です。
先に「残す利益」を決める
賃上げできる会社がやっていることを
一つ挙げるなら、これです。
利益を先に決める。
多くの会社は、売上から費用を引いて
「残った利益」を見ます。
でも、それでは賃上げの余地が見えない。
先に「いくら残さなければいけないか」を決める。
そこから逆算して、人件費を設計する。
たとえば、長期の運転資金の返済が
年間3,000万円あるなら、
最低でも経常利益3,000万円が必要です。
その上で、設備投資や事業投資の積立も確保する。
逆算するとこうなります。
年間返済額:3,000万円
事業投資の積立:500万円
最低限必要な経常利益:3,500万円
この数字が決まって初めて、
「人件費をいくら上げられるか」が見えてきます。
残す利益を先に置いて、
そこから人件費の上げ幅を決める。
この順番で考えている会社は、
賃上げを「できること」として扱えます。
人件費を「固定費」ではなく「変動費」として設計する
もう一つ、賃上げに強い会社がやっていること。
人件費の構造を、雇用形態で分けていることです。
売上や利益に直結するコア業務は正社員で固める。
在庫管理・補充・単純作業は外注で対応する。
人件費を変動費化して、
経営の柔軟性を保つ設計です。
最低賃金が1,500円に向かって上がり続ける今、
全員を正社員で固める構造は、
固定費の塊になります。
業績が下がったときのリスクが大きく、
逆にコア人材への投資も難しくなります。
役割を明確に分けることで、
コア人材には手厚く、流動的な業務は柔軟に。
このメリハリが、持続的な賃上げを可能にします。
正直に言うと、これが完璧にできている会社は
そう多くありません。
ただ、意識して設計しているかどうかで、
賃上げへの耐性はじわじわと変わっていきます。
経営者の裏ミッション
ここは少し、財務から離れた話をさせてください。
僕は、経営者の裏ミッションは
「構成員に少しでも多く配分すること」
だと思っています。
会社が利益を出す。
税金を払う。
その上で、働いてくれている人に還元する。
これは慈善事業ではなく、経営の本質です。
社員の生活が安定すれば、会社も安定します。
地域にお金が回れば、
経済も少しずつ良くなります。
日本の企業数のうち、
中小企業は約99%を占めています。
そこで働く人の給料が上がることの意味は、
小さくありません。
賃上げできる経営者が一人でも増えれば、
日本の経済は少しずつ変わっていきます。
だからこそ、
「賃上げしたい」という気持ちを
数字の設計に変えることが大事です。
今日できること
難しいことは何もありません。
今日一つだけ、やってみてください。
自社の粗利率を計算する。
売上総利益 ÷ 売上高 × 100。
その数字が、賃上げできる会社と
できない会社の分かれ目を教えてくれます。
粗利率が見えると、
「何をどう変えれば賃上げできるか」
が初めて見えてきます。
賃上げは、気持ちの問題ではありません。
設計の問題です。
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