賃上げ5%では足りない。中小企業が本当に目指すべき経営体質。

「うちも賃上げしないといけないのはわかってる。
でも、どこから出すんですか」
顧問先の経営者から、
この言葉を何度聞いただろう。
賃上げや春闘のニュースが流れるたびに、
複雑な顔をする経営者が増えています。
ただ、一つだけ最初に
言っておきたいことがあります。
賃上げは、周りの会社と比べて
やるかどうか決めるものではありません。
物価が上がっている以上、
賃上げをしなければ暮らしていけません。

そして、5%程度の賃上げで
十分だとも思わないでください。

物価上昇が続く中で、5%は
ようやく現状維持に届くかどうかの水準です。
中小企業が本当に目指すべきは、
5%を超える賃上げができる
経営体質をつくること
だと思っています。

大企業も中小も約5%、でも実態は全然違う

2026年の春闘結果を見ると、
一見すると意外な数字が出ています。
大企業も中小企業も、賃上げ率は約5%
ほとんど差がありません。
でも、この数字を
そのまま受け取ってはいけません。
集計対象は労働組合のある企業に限られるのです。
そして、連合の集計に入っている企業は、
大企業はもちろん、
中小企業であっても元々黒字体質で、
利益率に余裕のある会社が多い
という現実があります。
だから約5%の賃上げができる。
従業員99人以下の企業の労組組織率は、
わずか0.7%(厚生労働省、2024年)。
多くの中小企業は、
この集計にすら入っていません。
実態の賃上げ率は、
この数字よりはるかに低いのが現実です。
それでも赤字企業でも3%超の
賃上げをしている会社が多数あります。
「賃上げしないと人が辞めるから」という、
防衛的な賃上げです。
そもそも5%という水準自体、
物価上昇を考えれば
ようやく現状維持に届くかどうかです。

集計に入っている利益率の高い企業ですら、
そのレベル。
集計に入っている企業に追いつくだけでは、
もう足りません。
5%はゴールではなく、スタートラインです。

賃上げしない選択肢は、もう存在しない

では、賃上げを見送ればいいのか。
そうはいきません。
大企業との給与差が広がるほど、
採用は難しくなります。
今いるスタッフも、
より条件のいい会社に移っていく。
「賃上げしない」という判断は、
問題を解決しているのではなく、
先送りしているだけです。
実際、人件費高騰を原因とする倒産は、
2022年の7件から2025年には152件へと、
わずか3年で22倍に膨らんでいます。
(東京商工リサーチ、2026年1月発表)
賃上げできずに人が離れ、事業が回らなくなる。
そういう会社が、数字として現れ始めています。
集計に入っていない大多数の中小企業にとって、
これは他人事ではありません。
抜本的に経営体質を改善しない限り、
毎年じわじわと経営が苦しくなっていく。

賃上げについていける収益構造をつくることが、
今の中小企業経営者の最優先課題です。

最低賃金は「毎年上がるもの」として設計する

もう一つ、前提として
持っておくべき数字があります。
2025年10月に施行された最低賃金は、
全国加重平均で1,121円
前年比6.3%増で、
全都道府県で初めて1,000円を超えました。
政府の目標は「2030年までに1,500円」。
これを達成するには、
今後も年率5〜6%の引き上げ
続く計算になります。
そして、この最低賃金の上昇率は
「最低限の目安」と考えるべきです。
これを下回る賃上げは、
実質的に賃下げと同じとも言えます。
最低賃金の上昇は「今年だけ特別」ではなく、
構造的なコスト増として毎年続くのです。
「来年また上がる」を前提に、
採用計画・価格設定・財務計画を
組み直す必要があります。
今の賃金水準で5年後の損益を計算したら、
ほぼ確実に合わない。
そのくらいの覚悟で、設計し直す必要があります。

中小が取るべき打ち手は「原資をつくること」

賃上げすべき理由はわかった。
でも、本質的な問題は「どこから出すか」です。
大きくは3つの方向があります。

・価格転嫁を実行する
コストが上がっているのに、
価格を据え置いている会社がまだ多い。
「値上げしたら客が逃げる」
という恐怖はわかります。
ただ、値上げせずに赤字を垂れ流す方が、
長期では会社を傷つけます。
値上げは「できるかどうか」ではなく、
「どう伝えるか」の問題になってきています。

・生産性を上げる。
人を増やさずに売上・利益を伸ばす。
ITツールの導入、業務の標準化、AI活用。
1人当たりの生産性が上がれば、
賃上げの原資が生まれます。
これは一朝一夕には進みませんが、
手をつけていない会社は今すぐ始めるべきです。

・財務体質を整える
借入コストを下げ、手元資金を厚くする。
キャッシュフローに余裕がない状態で
賃上げをすると、資金繰りが詰まります。
賃上げは、財務の余力があってこそ持続できます。
融資条件の見直し、返済スケジュールの組み直し。
財務面の整備も、賃上げ戦略の一部です。

賃金体系も、同時に見直す

賃上げと並行して、
もう一つ手をつけるべき問題があります。
最低賃金の急上昇によって、
初任給と中堅社員の給与が
逆転・接近している
会社が増えています。
入って1年目のスタッフと、
5年働いてきたスタッフの給与差がほとんどない。
これは、ベテラン層のモチベーションを
確実に下げます。
一律の賃上げでは、この歪みは解消されません。
必要なのは、
役割・職務に基づいた賃金体系の再設計です。
「誰が何をやっているか」を言語化し、
それに見合った給与テーブルをつくる。
手間はかかりますが、これをやらないと、
賃上げをしても不満は残ります。

今期の数字を、来年を前提に組み直す

正直に言うと、
うちの事務所も賃上げを続けてきた一社です。
簡単ではありませんでした。
でも、原資をつくる経営に、
本気で向き合ってきたからこそ、
今があると思っています。

まだ完成形ではないけれど、
この問題から逃げない姿勢だけは
持ち続けています。
今日、一つだけやってみてください。
来年の最低賃金がさらに5〜6%上がる前提で、
来期の人件費を試算し直す。
それだけで、今の価格設定や採用計画に
無理があるかどうかが見えてきます。
「来年になったら考える」では、
もう間に合わない時代です。
5%に追いつくことを目標にしている間は、
中小企業の賃上げ競争に勝てません。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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