記帳は外注した方がいい。自計化という選択肢の落とし穴

税理士として、いろんな会社の経理を見てきました。
社内で全部回している会社、
外注している会社、
ハイブリッドで回している会社。
正直、どれが正解ということはありません。
ただ、経理の中でも「記帳」に限って言うと、
僕の考えははっきりしています。
記帳は、外注した方がいい。
世の中には自計化(記帳を自社でやること)
をすすめる専門家も多いですし、
経営者の中にも「記帳くらい社内で」
と考える方は少なくありません。
今日はそれでも、なぜ記帳は外注した方がいいのか、
その理由をお話しします。

「記帳くらい社内で」という感覚は、昔の話

その前に、少しだけ整理させてください。
ひとくちに「経理」と言っても、中身は多岐にわたります。
支払業務、入金確認、請求書発行、会計ソフトへの入力作業……。
今日お話しするのは、この中の
会計ソフトへの入力作業、つまり「記帳」の話です。
経営者の方からすると、こう感じるのは自然です。
「記帳くらい、事務員を一人雇えばできるでしょう」
「外注するとコストもかさむし」
その気持ちはよく分かります。
たしかに、記帳は基本的に手続き業務です。
売上1万円は、誰が記帳しても売上1万円。
答えが決まっている部分も多くあります。
ただ一方で、今の時代の記帳は、昔のように
「ただ仕訳を打てばいい作業」ではなくなってきています。
インボイス制度。
電子帳簿保存法。
消費税の経過措置。
毎年のように税制は複雑化しています。
簡単な部分は簡単。
でも、判断が必要な部分は年々重くなっている。
この二層構造が、今の記帳の難しさです。

AIがあっても、記帳は簡単にならない

「AIがあるから、これからは自計化できる」と考える方もいます。
理論上は、その通りです。
AIを使えば税制の判断もある程度任せられて、
数字を早く出すことも可能になってきています。
ただ、ここで一つ、現実の話があります。
AIが出してきた答えが本当に正しいかを判断するのは、
結局、人間です。
同じ支出でも、どの勘定科目で、どう処理するかによって、
税金の出方は変わります。
AIに聞けば「それっぽい答え」は返ってきますが、
本質が見えていないと、その答えが合っているかどうかが分からない。
不安なまま数字を進めていくことになります。
つまり、AIを記帳に活かすには、使う側に税務の知識が必要になる。
そして、こういう人材を中小企業で採用するのは、
現実にはかなり難しい。
上場企業のように人材を集められる規模であれば、
自計化して数字を早く出すことも十分可能だと思います。
ただ、中小企業でそれを実現するのは、率直に言ってかなり困難です。

仮に自計化できても、次は属人化の壁

ここで、運良くAIを使いこなせる経理人材を採用できたとします。
それは本当に素晴らしいことで、
その会社にとって自計化は十分機能する選択肢になります。
ただ、次に出てくるのが属人化の問題です。
「その人しかできない」状態は、会社として一番リスクが高い。
辞めたら、止まる。
休んだら、止まる。
産休・育休に入ったら、また一から組み立て直し。
経理は、毎月必ず動かさないといけない業務です。
止めることができない。
だからこそ、一人に依存している状態は、想像以上に脆いです。
外注すれば、この属人化のリスクから外れることができます。

「早く数字を見たい」なら、むしろ外注

自計化を検討する経営者の多くは、こういう動機を持っています。
「外注すると数字が遅くなる」
「自計化すれば、リアルタイムで月次が見える」
気持ちは分かります。
でも、正直に言います。
自計化で本当に早く数字が出ている会社を、
僕はほとんど見たことがありません。
理由はシンプルで、中小企業が社内で記帳をやる以上、
他の業務と並行することになるからです。
請求書の発行、入金確認、支払処理、来客対応、電話応対。
担当者は記帳「だけ」をやっているわけではありません。
結果、月次は後ろ倒しになります。
「今月の数字、まだ出てません」が常態化していきます。
記帳を外に出した方が、早く、正確に、安定して数字が出る。
これは、たくさんの会社を見てきた中での実感です。

税理士でも、自分の事務所の記帳を外注している人がいます

少し意外に思われるかもしれませんが、税理士の中にも、
自分の事務所の記帳を外部に外注している人がいます。
税理士はもちろん、自分で記帳ができます。
それでも外注するのは、
経営として間接業務を外に出す方が合理的だと判断しているからです。
自分でやればコストはかかりません。
でも、その時間を本業に使えば、それ以上のリターンが出る。
加えて、自分一人に依存する状態から抜けられる。
これは税理士に限った話ではなく、どの業種の経営でも同じです。
「自分でできること」と「自分でやるべきこと」は違う。
間接業務を外に出すという発想は、
会社が伸びていくときの基本的な考え方の一つ
だと思っています。

記帳の外注で手に入るのは、「仕組み」です

記帳を外注するというのは、
ただ作業を外に出すという話ではありません。

税務の判断を、専門家側で担保できる。
属人化のリスクから外れられる。
月次が、安定したスピードで出てくる。

この3つを同時に手に入れることが、記帳外注の本質です。
うちの事務所のお客様を見ていても、記帳を外に出してから、
経営者が数字を見る頻度が明らかに増えた会社がいくつもあります。
理由はシンプルで、数字が早く、安定して上がってくるから。
「もう出てるなら、見てみよう」となる。
これにより、経営判断を円滑に行うことが可能になります。
逆に、数字が遅く不安定だと、見る習慣そのものが育ちません。
経営者が手に入れるべきなのは、
「作業の削減」ではなく、
判断材料が早く正確に出てくる仕組みです。

今日できること

難しいことは、何もありません。
今日、一つだけ確認してみてください。
自社の月次が、今どれくらいのスピードで出ているか。
締めてから1ヶ月以内に出ているなら、
判断材料として十分機能しています。
2ヶ月以上経っているなら、
その数字は経営判断には使えません。
ただの過去の記録です。
記帳を誰がやるかは、単なる作業分担の話ではなく、
会社の意思決定のスピードを決める問題です。
自計化という選択肢を選ぶにせよ、外注を選ぶにせよ、
一度フラットに比べてみる価値はあると思います。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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