信用金庫の複数取引、それ本当に機能していますか

「うちは信用金庫を3つと取引しているから、
資金調達は安心です」
こう話してくれた経営者がいました。
聞いてみると、3つ全部、
借入はすべて保証協会付きでした。
競争原理を働かせたくて複数取引している。
その気持ちはよくわかります。
でも、本質はこうです。
全部が保証協会付きなら、
分散してもあまり意味がない。
今日はその理由と、
正しい戦略の考え方を整理します。

そもそも、なぜ複数取引をするのか

複数の金融機関と取引する目的は、
大きく2つです。
1つ目は競争原理を働かせること
金融機関同士が競争することで、
借りる側にとって有利な条件が引き出せる。
2つ目は支店長の性格リスクを分散すること
支店長には「営業畑」と「審査畑」がいます。
営業畑は積極的に貸したい。
審査畑は損失を出さないことが
評価軸なので慎重になりやすい。
支店長は2〜3年で入れ替わるため、
1行だけだと融資姿勢が急変するリスクがある。
この発想自体は正しいです。
ただ、保証協会付き融資だけでは、
この効果があまり機能しません。

保証協会付き融資は、そもそも競争できない構造になっている

ここが核心です。
保証協会付き融資とは、
会社が返済できなくなった際に、
保証協会が銀行に代わって
返済してくれる仕組みです。
【融資の仕組みについては、
以前の記事「法人融資は2種類だけ」で
詳しく解説しています)】

この仕組みでは、
融資の条件を決めるのは保証協会です。
金額、返済期間、保証の有無。
これらは保証協会の制度設計で決まっており、
信金同士で競争して決まるものではありません。
金利だけは差が出ますが、0.1〜0.2%程度です。
支店長の性格リスクについても同じです。
保証協会付きの場合、
銀行側のリスクはほぼ小さいです。
審査畑の支店長が来ても、
貸し渋りはあまり起きません。
つまり、保証協会付きのみで複数取引しても、
分散のメリットが生まれにくい
のです。

むしろ分散すると「広く浅い」関係になる

たとえば、必要な借入が5,000万円あるとします。
これを3つの信金に分散させると、
どの信金からも「小口取引先」として扱われます。
担当者の訪問頻度が落ち、
踏み込んだ提案も来なくなる。
同じ5,000万円を1つの信金から
借りていれば関係は太くなり、
将来のプロパー融資に
つながる可能性が高くなります

保証協会枠と公庫枠は「温存」が基本戦略

保証協会の無担保枠は、
制度上最大8,000万円
(目安は月商×3ヶ月分)です。
使い切ってしまうと、
本当に必要なときに使えなくなります。
枠を温存しておくことで、
急な設備投資や資金繰りの悪化時に
機動的に動けます。
公庫(日本政策金融公庫)は信金・地銀とは
別の独立した柱として管理するのが基本です。
整理すると、
活用できる資金調達の柱はこうなります。
保証協会付き(信金・地銀経由):無担保枠 最大8,000万円
信金プロパー(無担保):2,000万〜3,000万円程度
公庫(通常貸付):2,000万円程度
丸経融資(商工会議所経由):2,000万円程度

これらを組み合わせれば、
借入総額7,000万〜1億円前後は
十分に射程に入ります

では、複数取引が意味を持つのはどんな場面か

借入総額が7,000万〜8,000万円を超え、
売上1.5億〜2億円を超えるステージになると、
保証協会枠だけでは資金調達が
窮屈になってきます。
このタイミングで
信金+地銀という組み合わせが効いてきます。
地銀はプロパー融資の額が大きくなりやすく、
当座貸越など信金では
対応しにくい融資も使えます。
「信金同士の複数取引」ではなく、
性質の異なる金融機関を組み合わせるから
意味があるのです。

ただし、「1つに絞れば正解」でもない

ここまで「集中」の話をしてきましたが、
1行にすればいいという単純な話でもありません。
金融機関側も、新規取引は欲しいのが本音です。
「他にも候補がある」という状況は、
担当者の動き方に影響します。
この心理をうまく活用できるかどうかも、
資金調達の実力のうちです。
最適なバランスは地域性・事業規模・業種など、
様々な要素が絡むため一概には言えません。
自社の状況に合わせて、
専門家と一緒に考えることをおすすめします。

今日の整理と、できること

保証協会付き融資だけで複数の信金と取引しても、
競争原理は働き辛いです。
分散するほど関係は「広く浅く」なり、
将来のプロパーへの道が遠ざかる。
保証協会枠と公庫枠は温存が基本。
信金との関係は1つに絞って深く育てる。
「複数取引しているから安心」という感覚は、
実態を確認しないまま持ち続けると、
むしろリスクになります。
まず今の借入が保証協会付きかプロパーか
を確認してみてください。
試算書や借入の明細を見れば、
保証料が計上されているかどうかで判断できます。
すべてが保証協会付きなら、
分散より集中を検討するタイミング
かもしれません。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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