「値上げしたいけど、お客さんが離れないか不安で」
こういう相談を、経営者の方からよく受けます。
気持ちはよくわかります。
長いあいだ、値段は下げるもの、据え置くもの。
そういう空気の中で商売をしてきたからです。
でも、本質は「高いか安いか」ではありません。
その値段で、続けて買ってもらえるかです。
「値下げが当たり前」だった時代の終わり
日本はデフレが長く続きました。
モノの値段は上がらない。
むしろ、下がるのが普通。
値上げをすれば、お客様が離れる。
だから多くの会社が、
値段を据え置き、コストを削ることで
利益を守ってきました。
高単価を目指すどころか、
単価は下がるものという前提で
経営してきた時代です。
それが、ここ数年で少しずつ変わり始めています。
原材料費や人件費が上がり、
値上げのニュースも珍しくなくなりました。
国も動いています。
中小企業が価格転嫁をしやすい環境をつくるため、
2021年9月から毎年9月と3月を
「価格交渉促進月間」と定めています。
2026年3月の調査では、
価格交渉が行われた割合は90.7%、
コスト上昇分を価格に反映できた割合
(価格転嫁率)は54.2%でした。
まだ道半ばです。
でも、値段について話し合える時代に
入ってきたのは確かです。
中小企業は「高単価」で勝負する
大企業には資金力と規模があります。
大量に仕入れて、大量に売る。
低価格でシェアを取りにいける。
中小企業が同じ土俵に立っても、勝つのは難しい。
だから、価格競争には乗らない。
基本は高単価です。
高単価は、贅沢ではありません。
利益を残し、人に還元し、
次に投資するための前提です。
うちの事務所も、少人数で回して
一人ひとりに最大限還元する組織を
目指しています。
まだ道半ばですが、
そのためにも単価を上げることは
避けて通れません。
ただ、高く売ること自体は、
実はそれほど難しくありません。
ターゲットを絞り、ブランディングを整えれば、
一度は売れる。
大事なのは、その値段で続けてもらえるかです。
値決めの本質は「リピートされる値段」
ここで役に立つのが、
LTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)
という考え方です。
一人のお客様が、お付き合いの期間全体で
いくら使ってくれるか。
単価 × 頻度 × 継続期間
飲食店で考えてみます。
数字はわかりやすくするための仮のものです。
・週に1回、ふらっと一人で入る定食屋。
1,200円 × 月4回 × 3年 = 172,800円
・2か月に1回、大切な人を誘って行くレストラン。
単価は定食屋の10倍。
12,000円 × 年6回 × 3年 = 216,000円
・一度行ったきりの高級店。
単価は定食屋の25倍。
30,000円 × 1回 = 30,000円
定食屋とレストランは、
値段も頻度もまったく違います。
でも、どちらも成り立っている。
理由は一つ。
どちらもリピートされているからです。
一方、高級店は単価が25倍なのに、
3年間の合計は定食屋の約6分の1。
一番もったいないのは、
高い値段をつけて、一度きりで終わることです。
値段を決めるときは、
その場で売れるかどうかだけで考えない。
また来てもらえる値段かで考える。
これが値決めの本質です。
京セラ創業者の稲盛和夫さんは、
「値決めは経営である」と言いました。
お客様も喜び、自分も儲かる値段は、
一点しかない。
その一点を探し続けることが、
経営だということです。
中小企業の正解は「高単価×少数×継続」
では、定食屋がレストランと同じ
216,000円に並ぶには、どうすればいいか。
方法は二つしかありません。
値上げするか。
1,500円 × 月4回 × 3年 = 216,000円
来店を増やしてもらうか。
1,200円 × 月5回 × 3年 = 216,000円
月5回に増やすのは、簡単ではありません。
お客様の生活リズムを
変えてもらう必要があります。
来店が増えれば、席も、人手も、仕込みも増える。
一方、値上げなら来店数は同じ。
手間は同じまま、同じ額に届きます。
もう一つ、見てほしい数字があります。
3年間の接客回数です。
定食屋は144回。
レストランは18回。
ほぼ同じ金額を、8分の1の回数で稼いでいる。
回数が多いほど、注文も、会計も、
調整も増えます。
トラブルの数も、回数に比例して増えます。
一回にかけられる時間は短くなり、
満足度が下がる。
満足度が下がれば、続かない。
回数が少なければ、
一回一回に丁寧に向き合えます。
満足してもらえるから、続く。
続くから、紹介も生まれる。
数をさばくには、大企業のような人と
仕組みが必要です。
中小企業が得意な戦い方ではありません。
中小企業の正解は、
高単価 × 少数 × 継続。
これだと思っています。
だから、ターゲットもここから決まります。
狙うのは、その値段に価値を感じ、
長く続けてくれるお客様。
「誰にでも」ではなく、
深く続く関係が成立する相手に絞る。
ただ、1,500円を払ってもらうには、
1,500円に見合う理由が必要です。
そこで大事になるのが、商品設計です。
続けてもらうための「商品設計」
続けてもらうには、仕組みが必要です。
値段は、商品ができてから
付けるものではありません。
誰に、いくらで、どう続けてもらうかから、
商品を組み立てます。
入口の商品:まず価値を体験してもらう
継続の商品:長く使ってもらう
上位の商品:さらに深い価値を届ける
この価格の階段があると、
お客様は無理なく次の段へ進めます。
税理士事務所でうちを例にするなら、
創業融資 → 顧問 → 社外CFO
という流れです。
ただ、多くの経営者の方と話していて感じるのは、
ここまで考えて値段を決めている会社は、
意外と少ないということです。
値段は、創業時に決めたまま。
競合の価格や、なんとなくの相場で決めている。
商品も、一つだけで階段がない。
だからこそ、差がつきます。
誰に、いくらで、どう続けてもらうか。
これを常に考え、値決めと商品を見直し続ける。
一度で正解は出ません。
試行錯誤し続けることそのものが、経営です。
上位10社の「継続年数」を出してみる
難しい分析はいりません。
売上上位10社の、
平均継続年数と年間取引額を出してみてください。
それだけで、二つのことが見えてきます。
一つは、長く続いているお客様の共通点。
それが、狙うべきターゲットです。
もう一つは、商品の段の抜け。
入口ばかりで続かないのか。
続いているのに、上の段がないのか。
高く売ることを、恐れなくていい。
そのうえで、続けてもらえる形をつくる。
値決めは、その会社の経営そのものです。
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