1年後の現預金を答えられない社長は、決算書を読めていない

「うちは黒字ですよ」
そう言う経営者の方に、
「では、1年後の口座には
いくら残っていそうですか」
と聞くと、たいてい言葉に詰まります。
試算表は毎月見ている。
決算書の数字も、だいたい頭に入っている。
それでも、「1年後の預金残高」
と聞かれると、答えられない。
決算書が読めるとは、
過去の数字を説明できることではありません。

今日はその話をしたいと思います。

財務分析の目的は「過去の説明」ではない

損益計算書も、貸借対照表も、
基本的には過去の記録です。
一定期間、あるいは一時点を
切り取ったものにすぎません。
でも、本質は「これから」にあると、僕は思っています。
経営判断に本当に必要なのは、
過去の数字の解説ではなく、
これから何が起きるかの見通しです。
少しおもしろいのは、
利益という数字の性質です。
利益は、税理士が変われば変わることがあります。
減価償却の方法、在庫の評価、
経費の計上タイミング。
考え方によって、利益は動きます。
もちろん、どれも合法の範囲内です。
一方で、現金は違います。
誰が計算しても、
預金通帳の残高は1つしかありません。
利益は意見で変わる。
でも、現金は事実です。

この違いを意識できているかどうかで、
財務分析の意味は大きく変わります。

黒字でも潰れる理由は、決算書に書いていない

損益計算書には、限界があります。
売上が上がっても、
入金がいつになるかは書いてありません。
在庫が増えても、それは表れません。
そして、借入金の元本返済。
これは損益計算書上、どこにも出てきません。
利息は営業外費用に載りますが、
元本の返済額は完全に見えない支出です。
毎月、確実にお金が出ていくのに、
損益計算書上はまったく存在しない。
これが、黒字なのに資金が回らなくなる、
一番大きな原因の一つです。
倒産するのは、赤字の会社ではありません。
現金が尽きた会社です。

だからこそ、決算書が読めるということは、
1年後の預金残高を、ある程度の精度で
答えられるということだと、僕は考えています。

なぜ「1年後」なのか。まず現預金から見る理由

経営者の方と話していると、
中長期計画という言葉をよく聞きます。
3年後、5年後、
中には10年先までの損益計画を
持っている会社もあります。
それ自体は、大切なことです。
でも、そこで一つ確認したいことがあります。
10年先の損益計画はあるのに、
1年後の現預金がいくらか分からない。

これでは、順番が逆です。
3年後、5年後の計画も大切です。
ただ、その前に、
まず1年後の現預金を、
自分の言葉で答えられる状態にしておく。
これが土台になります。
なぜなら、3年後、5年後は、
市場の変化、金利の動き、
大型案件が取れるかどうかなど、
不確定要素が多すぎるからです。
不確定要素の多い予測を立て続けると、
だんだん「予測しても、どうせ外れる」
という感覚が生まれます。
そうなると、予測そのものが
形だけの作業になっていきます。
ここで、二つの場面を比べてみます。

パターンA:1ヶ月後に気づく社長
「来月、お金が足りなくなりそうです」

パターンB:1年後に気づく社長
「このままだと、1年後に資金が厳しくなりそうです」

パターンAは、もう手の打ちようがありません。
銀行の審査は間に合いませんし、
コスト削減も、今すぐ効果は出ません。
パターンBは、まだ選択肢が残っています。
融資の相談、営業の強化、
投資の先送り。
時間があるからこそ、
複数の手を検討できます。
1年後であれば、
すでに受注している案件や、
固定費の見込みも高い精度で分かります。
振り返りのサイクルも、3年後を待つより早く回せます。
まず1年後の現預金を正確に見通せないうちに、
3年後、5年後を語っても、
その計画は絵に描いた餅になりやすい。

そう思っています。

予測の精度を上げるのは、損益計画と資金繰り表

1年後の預金残高を、
なんとなくの足し算引き算で出しても、
精度は上がりません。
必要なのは、精緻な損益計画とそれに連動した資金繰り表です。
売上、原価、固定費を、
月ごとに、できるだけ具体的に見込む。
そして、その損益計画と連動させて、資金繰り表をつくる。
損益計画と資金繰り表は、別物です。
損益計画は、利益の見込みを示すもの。
資金繰り表は、現金の動きを示すもの。
この2つが連動して、初めて
1年後の預金残高に、意味のある精度が出ます。

売上高がそのまま入金額になるわけではありません。
今月の売上が翌月入金なのか、
当月中に支払いが発生するのか。
ここを丁寧に見ていく必要があります。
正直なところ、うちの事務所としてのサポートも、
最初から精緻な損益計画とそれに連動した資金繰り表
があったわけではありません。
まずはざっくりとした月次損益の見込みから始めて、
少しずつ資金繰り表と連動させてきました。
それでも、1年前の状態と比べれば、
先の見通しの精度は確実に上がっています。

予測できると、経営者の「手数」が増える

1年後の預金残高が見えていると、
資金調達のタイミングが遅れません。
「来月お金が足りないので貸してください」
という相談と、
「1年後、月商の2ヶ月分を下回りそうなので、
今のうちに相談させてください」
という相談では、
金融機関の受け止め方がまったく違います。
後者の方が、明らかに信頼されます。
投資や採用の判断にも、変化が出ます。
「なんとなく不安だから、投資は控えよう」
ではなく、
「1年後も月商の2〜3ヶ月分は残る見込みだから、
このタイミングで投資に踏み込める」
という判断ができるようになります。
そして、これを1回やって終わりではなく、
毎月、予測を更新し続けることが大事です。
繰り返すことで、
損益計算書上の利益と、
実際の預金残高がどうつながっているのか、
その感覚が自然と身についていきます。

まずは、1年分の損益を書き出すことから

まずは1年分の月次損益を、
ざっくりでいいので書き出してみてください。
売上、原価、固定費、
それぞれ大まかな見込みで構いません。
精緻な資金繰り表は、その先にあります。
まずは、損益の見通しを持つこと。
そこから、1年後の預金残高は、
少しずつ見えるようになってきます。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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