先日、顧問先の税務調査に
立ち会っていたときのことです。
当然ですが、僕が顧客のパソコンを
触ることはありません。
どこにどんな資料が保存されているかは、
顧客にしか分からないです。
調査官から、
「この経費の領収書、見せてもらえますか」
と言われると、顧客が自分のパソコンを開いて、
「たしかこの辺に…」と探し始める。
横で僕らも待つしかありません。
金額も内容も、何も問題はなかったんです。
ただ、探すのに時間がかかった。それだけで、
その場の空気が少し変わりました。
でも、本質は「保存しているかどうか」
じゃありません。
渡せる状態にしてあるかどうかです。
なぜパソコン保存だと調査で詰まるのか
領収書や請求書をスキャンして
パソコンに保存する方が増えています。
電子化自体はとても良いことです。
ただ、パソコンを丸ごと渡すわけにはいきません。
調査官に求められるたびに、
保存した本人が該当のファイルを探して、
開いて、見せる。
時には印刷して渡すこともあります。
一件二件なら問題ありませんが、
何十件と続くと時間もかかりますし、
「整理されていない」という印象を
与えてしまいます。
探す時間の長さそのものが、
心証に影響することがあります。
紙の強さは「渡し切れる」こと
実際によくある二つの場面を比べてみます。
パターンA:パソコンで都度対応する場合
「少々お待ちください」「えっと、これじゃなくて…」
一件ごとに検索して、開いて、見せる。
その間、調査官は待つことになります。
パターンB:紙で保存している場合
「こちらの箱にまとめてあります、どうぞ」
月別・年別にまとまった紙の束を渡すだけ。
あとは調査官が自分のペースで見ていきます。
内容は同じでも、伝わる印象はまったく違います。
紙が強いのは、アナログだからではなく、
一度に渡し切れるからです。
渡してしまえば、こちらが
逐一対応する必要がありません。
ちなみに、この紙の保存、
きれいにノートに貼ったり、
ファイルに整然と綴じたりする必要はありません。
月別・年別に、箱や封筒に
ざっくり分けてあれば十分です。
渡し切れるかどうかが大事なのであって、
見た目の美しさは関係ありません。
とはいえ、全部の年がごちゃ混ぜで
封筒から溢れているような状態だと、
それはそれで心証が悪くなります。
最低限の整理はしておきたいところです。
もう一つ、紙を選ぶ理由があります。
データでまとめて渡してしまうと、
調査で必要な部分以外まで
細かく見られてしまうことがあります。
調査に非協力的にしたいわけではありませんが、
紙で十分渡せるものを、わざわざデータで渡して
必要以上に晒す必要はないと思っています。
見つからなかった場合、実際どうなるか
「探すのに時間がかかる」だけなら、
まだいいほうです。
問題は、本当に見つからなかった場合です。
領収書や請求書がない経費は、実態があっても、
証明できなければ経費として認められない
可能性があります。
最悪の場合、帳簿の内容そのものが
信用できないと判断され、
推計課税という形で、実際の数字とは関係なく
税額が決められてしまうこともあります。
消費税でも同じことが起きます。
消費税法では、仕入税額控除を受けるために
帳簿だけでなく請求書等の保存が
要件になっており、
インボイス制度が始まってからは
この要件がさらにはっきりしました。
適格請求書(インボイス)が保存されていなければ、
実際に取引があり消費税を払っていたとしても、
その分の仕入税額控除が認められない
ことがあります。
しかも、これは解釈や交渉の余地が
ある話ではありません。
法律上、保存が要件と決まっている以上、
否認されても反論のしようがないです。
「ちゃんと使ったお金なのに」が通用しない。
それが税務調査の厳しいところです。
探すのに時間がかかることと、
そもそも出てこないこと。
この差は大きいようで、根っこは同じです。
渡せる状態にしていなかった、
それだけのことです。
法律上も、もちろん保存は義務です
念のため触れておくと、
領収書や請求書などの証憑書類は、
税法上、一定期間の保存が義務づけられています。
感覚の話ではなく、そう決まっているものです。
法人の場合、原則として7年間、
欠損金を繰り越している場合は
10年間になることもあります。
また、電子データで受け取った請求書などは、
電子帳簿保存法のルールに
沿った保存方法が必要です。
紙で受け取ったものを紙のまま保存するのは
これまで通りで問題ありませんが、
データで受け取ったものを紙に印刷して保存する、
というやり方は原則として
認められなくなっています。
このあたりは細かい要件があるので、
「うちはどうすればいいか」
を一度整理しておくと安心です。
紙にしろという話ではない、でも今はまだ紙が強い
ここまで紙の話を中心にしてきましたが、
データ保存を否定しているわけではありません。
電子帳簿保存法を活用すれば、
領収書や請求書をデータのまま
保存することも可能です。
ただ、実際にやってみると意外と手間です。
紙で受け取るものがまだ多い中で、
スキャンして要件に沿った形式で
整理して保存する。
このひと手間が、
日々の業務に積み重なっていきます。
さらに、データでまとめて保存していると、
調査の際に必要以上に細かく見られてしまう、
というデメリットもあります。
正直な感覚として、
今の税務調査の現場は、まだ紙の社会です。
調査官も紙で確認することに慣れていますし、
その場で束を渡して終わる、というスピード感は、
今のところ紙にしかない強さだと感じています。
将来的にはデータ完結の調査も
増えていくと思いますが、
現時点でどちらが実務的に強いかと聞かれたら、
僕は今でも紙だと答えます。
アナログだから劣っているのではなく、
今の調査の実態に合っているかどうか、
それだけです。
今日、領収書の「渡し方」を1つ決めてください
今日、領収書や請求書を、
どう渡すかを一つだけ決めてください。
箱でも、フォルダでも構いません。
大事なのは、聞かれたら
すぐ渡せる状態にしておくことです。
一件ずつパソコンを開いて見せる、印刷して渡す。
この積み重ねをなくすだけで、
調査での負担はかなり減ります。
そして、これは調査のときだけの
話ではありません。
渡し方をあらかじめ決めておけば、
日々の経理や確定申告の準備
そのものもスムーズになります。
必要な範囲を、必要な形で、迷わず渡せる。
その仕組みが、調査対応と
日々の業務効率化を同時に叶えてくれます。
YouTube「にいみ税理士のお悩み相談室」
YouTube / にいみ税理士のお悩み相談室
日々の会計・税務・経営支援の現場でよくあるお悩みを解決!
さらに、節税のポイント、資金繰り、事業計画のヒントなどをわかりやすく解説しています。
気になる方は、ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします!



