面談がうまい税理士は、お客様に喋らせる

先日、スタッフの面談に同席したときのことです。
決算の数字を見せながら、
「ここは繰越欠損金の話で……」
「これは損金不算入になるので……」
とスタッフが説明を進めていました。
お客様は、うなずいてはくれます。
でも、途中から表情が少し硬くなっていました。
「わかったふり」になっている瞬間だと、
僕は感じました。
専門知識はしっかりしている。
説明も間違っていない。
それでも、伝わっていないことがある。
このとき気づきました。
スタッフは、教えることに一生懸命になっていて、
お客様が何につまずいているかを、
聞けていなかったんです。
一方的に説明する。
つまり、ティーチングです。
でも、本質は
ティーチングではなく、コーチングです。
そして面談には、
思っている以上にテクニックが要ります。

なぜ税理士はティーチングに偏りやすいのか

税務顧問という仕事は、
「正しい答えを知っている」ことが前提の仕事です。
だからこそ、
面談でもつい答えを渡したくなります。
特に、面談に慣れていない人ほど、
この傾向が強く出ます。
沈黙が怖いからです。
お客様が黙っていると、
「何か話さなければ」と焦ってしまう。
その焦りが、専門用語を交えた
早口の説明になって出てきます。
気持ちはよくわかります。
面談がうまくいくかどうかは、
実は知識量では決まりません。
信頼関係ができているかどうかで決まります。
うちの事務所でも、
信頼関係構築」を
一つのテーマとして掲げています。
お客様が本音を話してくれるかどうかは、
テクニック以前に、
安心して話せる関係が
あるかどうかにかかっています。
専門用語で説明を固めてしまうのは、
実はこの安心をつくる前に、
情報を渡そうとしてしまっている状態です。
順番が逆なんです。

ティーチングとコーチングは、何が違うのか

ティーチングは、答えを渡すことです。
コーチングは、答えを引き出すことです。
コーチングの世界には、
GROWモデルという有名な枠組みがあります。
Goal(目標)、Reality(現状)、
Options(選択肢)、Will(意志)。
この順番に問いかけていくことで、
本人の中にある答えを引き出す、
という考え方です。
面談のたびに、
ここまで丁寧にやる必要はありません。
でも大事なのは、
答えは、本人の中に既にある」という前提です。
税務顧問の担当である僕たちは、
つい「答えは自分たちが持っている」
と思ってしまいがちです。
でも、お客様の事業について
一番わかっているのは、お客様自身です。
数字の見方は僕たちの専門ですが、
その数字をどう活かすかは、
お客様の中にすでにヒントがあります。
一見、ティーチングの方が親切に見えます。
早いし、正確だし、間違いがない。
でも、答えを渡された側には、
理解した実感」が残りません。
理解した実感がないまま面談が終わると、
お客様は自分の言葉で説明できません。
自分の言葉で説明できない数字は、
経営判断に使われないまま終わります。

同じ質問でも、返し方で結果が変わる

よくある場面を、二つ並べてみます。

パターンA:ティーチング型
「今期は利益率が下がっていますね。
仕入額を減らすか、売価を上げるか。
どちらかを考えないといけません」

パターンB:コーチング型
「今期、利益率が下がっていますが、
何か思い当たることはありますか?」

パターンAは、正しいです。
でも、お客様は
「二択のどちらか」を選ぶだけになります。
パターンBは、少し遠回りです。
でも、お客様自身が原因に気づいたとき、
その改善は「自分ごと」になります。

このパターンBのような質問を、
オープンクエスチョンと呼びます。
「はい」「いいえ」で終わらない質問は、
相手に考える余白を残します。
逆に、
「仕入額を見直しますか?」というような
クローズドクエスチョンばかりの面談は、
お客様の思考を止めてしまいます。
自分ごとになった改善は、続きます。
言われただけの改善は、続きません。

専門用語は、思考を止める

繰越欠損金」「損金不算入」。
こうした言葉を使うとき、
本当にお客様のためになっているでしょうか。
正直に言うと、
専門用語を使ってしまう場面の多くは、
自分の理解を確認したいだけだったりします。
毎年使っている言葉でも、
お客様にとっては年に一度しか聞かない言葉です。
こちらが当たり前に使ってしまう言葉ほど、
実は当たり前ではありません。
大きな数字や難しい概念ほど、
伝えること自体も大事です。
知らないままにしておくのは、不親切です。
ただ、伝えるだけで終わらせず、
お客様が明日から動ける行動レベルまで
分解して渡す必要があります。
専門用語を正確に伝えることと、
お客様が自分で気づき、
動けるところまで持っていくこと

どちらも必要ですが、
面談でより大事なのは、後者です。
「利益率が下がっている」という大きな話を、
「今月、どの取引先への売価を見直せそうか」
というところまで小さくして初めて、
お客様は動けます。
用語を使わずに説明できるかどうかは、
そのままこちらの理解度を測る指標にもなります。
かみ砕けないということは、
自分もまだ、本当の意味ではわかっていない
ということかもしれません。

コーチングは時間がかかる。それでも続ける理由

正直に言うと、
僕もまだ、面談時間が押しているときは、
つい結論から話してしまうことがあります。
コーチングには、時間がかかります
問いかけて、待って、
お客様が言葉にするのを待つ。
効率だけを考えれば、
ティーチングの方が圧倒的に早いです。
でも、面談の目的は
「早く終わらせること」ではありません。
お客様が、自分の数字を、
自分の言葉で語れるようになること
それが、面談を重ねる
本当の意味だと思っています。

結論の前に、一つ問いを

面談がうまい税理士は、
知識が多いわけではありません。
信頼関係をつくる順番と、
問いの立て方を知っているだけです。
次の面談で、試してほしいことがあります。
数字を見て、改善点に気づいた瞬間。
そこで、すぐに結論を話さない。
「今期、利益率が下がっていますが、
何か思い当たることはありますか?」
まず、これを聞いてみてください。
お客様が黙ったら、
それは考えている時間です。
沈黙を、埋めなくていいんです。
お客様の口から理由が出てきたら、
そこから初めて、一緒に選択肢を考える。
お客様自身の言葉から出発した答えは、
面談が終わったあとも、お客様の中に残ります。
その一歩のために、今日の面談で、一つだけ。
結論の前に、一つ問いを。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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