先日、ある経営者の方に、こう聞かれました。
「税理士の仕事って、
将来AIになくなったりしないんですか?」
悪気はまったくない、素朴な質問です。
でも、僕は一瞬、答えに詰まりました。
「なくならないと思います」とは言えるけれど、
その根拠を、自分の言葉で
うまく説明できなかったからです。
それなら、AI自身に聞いてみようと思いました。
Claude、ChatGPT、Geminiに、
まったく同じ質問を投げてみたのです。
「税理士という仕事は、
AIによってなくなると思いますか?」
3つのAIの答え
まずClaudeです。
記帳や仕訳入力、定型的な書類作成のような
「正解が一つに決まっている作業」
は代替が進むとしながら、
経営者の曖昧な相談を言語化することや、
税務調査で事業性を文脈込みで説明し、
相手を説得することは残ると答えました。
資格や職業名は残るが、
中身は大きく入れ替わる、という言い方でした。
次にGeminiです。
記帳代行や定型申告はAI-OCRなどで
急速に置き換わるとしつつ、
複雑な税務判断、経営相談、
そして税務調査での交渉は
AIには代替できない領域だと答えました。
特に「税務代理」は国家資格を持つ
税理士の独占業務であり、
落としどころを探る交渉は人にしかできない、
という指摘が印象的でした。
最後にChatGPTです。
記帳や税法の検索、申告書作成補助は
AIの得意分野としながら、
借入判断や役員報酬、事業承継のような
「答えが一つではない相談」
は人の価値が残ると答えました。
そして、AIを使えない税理士とAIを使って
経営支援までできる税理士の二極化が進むだろう、
という見立てでした。
3つのAIに共通していたこと
言葉づかいは違っても、
3社が挙げていたポイントはほぼ同じでした。
記帳、仕訳、定型書類の作成は、AIに置き換わる。
一方で、経営判断への関与、
税務調査での説明・交渉、
経営者との信頼関係を前提にした相談は、
人に残る。
つまり、「正解が決まっている仕事」はAIに、
「正解が一つではない仕事」は人に、
という線引きです。
これ自体は、なんとなく予想していた通りでした。
驚きは、あまりありませんでした。
数字で見る、期待とリスクの両面
ここで少し、数字も見ておきます。
体感の話だけでは、
説得力に欠けると思うからです。
まず普及の実態です。
個人事業主のクラウド会計利用率は4割に迫り、
国税庁のデータでは
e-Tax利用率が7割を超えています。
一方で、事務所側の対応はまだ道半ばです。
日本の税理士事務所で
AI活用やDXを進めている割合は、
調査によって1〜3割程度とされています。
つまり、顧問先側の環境は整いつつあるのに、
事務所側の活用はまだ全体の少数派、
というねじれがあります。
次に市場の期待度です。
AI関連・半導体株の株価上昇は、
2026年に入ってさらに加速しました。
米国の主要半導体30銘柄で構成される
フィラデルフィア半導体株指数は、
年初来60%台の上昇、1年前比では
140%超の上昇を記録しています。
これはITバブル期以来の水準です。
ただし、専門家の見立てでは
この株価上昇は業績予想の
大幅な上方修正に支えられており、
株価収益率で見ると現時点で
過度な割高感は乏しいとされています。
市場は「AIは本当に稼げる」と評価している、
ということです。
とはいえ、楽観一色ではありません。
2027年以降はAI投資の
伸びが鈍化するとの見方があり、
投資の持続性が続かなければ、
金融市場で急激な調整が
起きるリスクも指摘されています。
さらに、普及を妨げかねない
AI自体のリスクもあります。
生成AIが誤った情報を
もっともらしく生成してしまう
「ハルシネーション」は、
すでに実害を伴う形で表面化しています。
また、企業側の体制整備も追いついていません。
生成AIのセキュリティ課題を認識している
企業は6割を超える一方、
社内の利用規則を明文化できている企業は
2割に満たない、という調査結果もあるようです。
期待が先行し、普及も進んでいる。
でも、事故が一つ起きるだけで、
一気に慎重論に傾く土壌も、まだ残っている。
これが、2026年7月時点での
AIをめぐる現在地だと思います。
「残る」と言われた部分に、これまで通り力を入れてきた
3社の回答を並べて読んでいるうちに、
一つ、あらためて確認できたことがあります。
AIが「残る」と言った業務、
つまり経営判断への関与や、資金繰りの相談、
事業承継のような込み入った話。
これはまさに、うちの事務所が、
社外CFOとして力を入れてきた
領域そのものでした。
AIが「ここは残る」と言った部分と、
僕らがこれまで時間と人をかけてきた部分が、
ほぼ重なっていました。
この記事を書きながら、
その方向性は間違っていなかった、
とあらためて感じました。
だからこそ、ここで気を抜かず、
この領域にこれまで以上に力を入れ続けることが、
これからの差になっていくはずです。
問うべきは「なくなるか」ではない
「税理士はなくなるか」という問いは、
実はあまり意味がないのかもしれません。
なくなるかどうかは、業界全体の話であって、
一人ひとりの税理士や、
一つひとつの事務所の話ではないからです。
本当に問うべきは、
記帳や入力に使っていた時間が浮いたとき、
その時間を何に使うか、だと思います。
経営者の相談に、もっと深く入り込むのか。
資金繰りや事業承継の設計に、
もっと時間を割くのか。
それとも、浮いた時間を、
ただの余白のままにしてしまうのか。
AIが代わりにやってくれる仕事が増えるほど、
この問いへの答えが、
事務所の価値を分けていくはずです。
問いを変えると、見える景色が変わります。
「なくなるか」を心配するより、
「何に時間を使うか」を決める。
その決断の積み重ねが、
これから先の税理士という
仕事をつくっていくのだと思います。
YouTube「にいみ税理士のお悩み相談室」
YouTube / にいみ税理士のお悩み相談室
日々の会計・税務・経営支援の現場でよくあるお悩みを解決!
さらに、節税のポイント、資金繰り、事業計画のヒントなどをわかりやすく解説しています。
気になる方は、ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします!



