インボイス制度は、34年前から仕組まれていた

「インボイス、また何か変わるんですか」
最近、経営者の方からよくこう聞かれます。
複数税率、登録番号、2割特例。
たしかに、次々と制度が変わっているように見えます。
僕自身、消費税が導入された1989年は、
ちょうど小学校に入ったばかりでした。
物心つく前から当たり前にあった税金なので、
正直、「なぜこの形なのか」を考えたことはありませんでした。
でも、本質は「また変わった」ではありません。
今のインボイス制度は、34年前から始まっていたものです。
そして、この歴史を知っておくと、
今まさに動いている食料品減税やインボイスの見直しが、
どういう思惑で進められているかが読めるようになります。

国が、どうしても消費税を導入したかった理由

なぜ、国はそこまで消費税が欲しかったのか。
理由はシンプルです。
当時の税収は、所得税や法人税といった、
働く人・会社の稼ぎにかかる税金に偏っていました
この仕組みだと、景気が悪くなればすぐ税収も減ります。
しかも、これから高齢化が進めば、
税金を払う現役世代はどんどん減っていきます
だったら、働いている人だけでなく、
モノを買うすべての人から、広く薄く税金を集めればいい。
これが、国にとっての消費税の狙いでした。
一方、消費者からすれば話は別です。
今までゼロだったものに、急に税金がかかる。
反対が起きるのは、むしろ当然のことでした。
大平内閣の一般消費税(1979年)、
中曽根内閣の売上税(1987年)。
どちらも、この反対によって選挙で潰されています。

反対を抑えるために、あえて”ゆるく”作った

竹下内閣(1988-89年)。
売上税で計画していたインボイス方式は、
事務負担への反発で断念しました。
一転して選んだのが、帳簿方式です。
そして中小事業者向けに、
簡易課税制度(当初は売上5億円以下)を導入しました。
簡易課税の仕組みは、シンプルです。
本来は「預かった消費税 − 実際に払った消費税」で納税額を計算します。
簡易課税は、実際の仕入れを計算せず、
「売上の〇割を仕入とみなす」で計算できる制度です。
たとえば、みなし仕入率が50%の業種だとします。
売上にかかる消費税が100万円なら、
実際の仕入れがいくらであっても、
50万円を払ったとみなして差し引けます。
事務負担が減るのはもちろん、
実際の仕入率がみなし仕入率より低い業種だと、
預かった消費税より少ない納税で済み、差額が手元に残ります
これが、いわゆる益税です。
事務負担を軽くする配慮のつもりが、
結果的に益税といううまみを生み、
それが反対を和らげた。
「小さく生んで大きく育てる」という
当時の自民党幹部の言葉は、
この設計をよく表しています。

税率が上がるたびに、制度は少しずつ厳しくなった

簡易課税の基準は、その後も少しずつ絞られていきます。
5億円 → 4億円(1991年) → 2億円(1997年)
→ 5,000万円(2004年、現行)
そして2019年、軽減税率(8%/10%)が導入されました。
ここで、帳簿方式の限界がはっきりします。
税率の異なる取引が混在すると、
帳簿に売上・仕入を記録するだけでは、
どの取引がどちらの税率かを正確に区分できません
制度を維持するには、もう帳簿方式では足りなくなっていました。

34年越しの実現。国にとって何が変わったのか

2023年、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が
本格導入されました。
益税の解消は、免税事業者にとって重い意味を持ちます。
インボイスを発行できない免税事業者との取引は、
買い手側が仕入税額控除を受けられません。
結果として、課税事業者になる圧力
市場から自然にかかる仕組みです。
国にとっては、税収の正確な捕捉。
そしてOECD諸国のほとんどがインボイス方式という、
国際標準との整合。
事業者にとっては、
長年享受していた”うまみ”の回収でもありました。

本当にここまで複雑にする必要があったのか

ここまで見てきて、僕はふと思います。
帳簿方式でうまく回っていたのなら、
そのまま税率だけを段階的に上げていく、
という道もあったはずです。
でも、それでは10%への引き上げは通せなかったと思います。
軽減税率は、税収を増やすための手段というより、
増税を国民に飲んでもらうための”痛み止め”でした。
免税事業者制度を法律で直接なくすより、
インボイスという間接的な市場圧力で進める方が、
政治的にはずっと通しやすかったはずです。
現状、複数税率とインボイスで、
事務負担は導入前とは比較になりません。
2026年の今も、食料品の消費税をめぐる議論が動いています。
一見、行き当たりばったりに見えるかもしれません。
でも、辿ってみると一貫しています。
痛みを分割して、飲みやすくしながら進める
これが、34年間ずっと変わらない消費税の作られ方です。

歴史を知ると、今の改正の”狙い”が見えてくる

制度は、いつも「なぜ今の形になったか」
という経緯を背負っています。
インボイス対応も、目の前の事務作業として
捉えると負担でしかありません。
でも、この歴史の延長線上にあると分かれば、
次に何が変わるかも、少し予測しやすくなります
たとえば今議論されている食料品減税も、
「痛みを分割して、飲みやすくする」という同じ構造の続きです。
僕自身、インボイス対応の実務が
すべて完全に仕組み化できているかというと、
まだ改善の余地はあります。
それでも、制度の背景を知っておくことは、
目先の対応に振り回されないための、一番の備えだと思っています。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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