先日、avexの松浦勝人会長がXで
こんな投稿をしていました。
「車を売って3億儲かったら、
税金はいくらだと思いますか?」
5億円で購入した限定車のフェラーリが、
今では8億円ほどの価値になった。
売れば利益は3億円。
ところが、実際に顧問税理士から示された税額は、
なんと3億4900万円。
利益を上回る税金がかかる可能性がある、
という話でした。
税理士として、この仕組み自体は理解しています。
数字だけ見ると、やはり感覚とのズレを覚えます。
でも、本質は「税金が高い」
ということではありません。
利益の計算方法そのものが、
直感とズレているということです。
今日は、この仕組みを整理しながら、
経営者にとって何が学びになるかを考えてみます。
生活用か、投資用か。最初の分かれ道
まず押さえておきたいのは、
すべての資産が同じルールで
課税されるわけではない、ということです。
日常的に使う車や家財などの生活用資産は、
売っても原則として税金はかかりません。
一方、コレクションや投資目的で
保有している資産は、
売却益が譲渡所得として課税対象になります。
松浦氏の限定車は、
世界に数百台しかない希少車で、
価値の上昇を見込んで保有していた面が強い。
つまり、生活用資産ではなく投資用資産
として扱われる可能性が高い。
ここが最初の分かれ道です。
同じ「車を売った」という行為でも、
持ち方次第で課税・非課税が
まったく変わってきます。
使っていないのに「償却された」ことにされる不思議
ここからが、今回の一番の論点です。
譲渡所得は、単純に
「売った金額 − 買った金額」では計算しません。
買った金額から、
価値の目減り分(減価償却費相当額)を
差し引いた金額を基準にします。
普通に考えれば、
「減価償却なんて
一度も計上していないから関係ない」
と思うところです。
でも、実際のルールはそうなっていません。
たとえ実際には、
一度も減価償却を計上していなくても、
税務上は「償却されたもの」とみなして計算する
仕組みになっています。
車は年数が経てば価値が下がる、という前提です。
ところが今回のケースは逆でした。
希少性が上がって、5億円が8億円になっている。
実際には価値が上がっているのに、
計算上は下がったことにされる。
この前提のズレが、
「利益より税金が高くなる」
という不思議な結果を生んでいます。
保有期間5年、1日の差が数千万円を分ける
もうひとつ、大きな論点があります。
それが保有期間です。
資産は、5年を超えて保有したのちに譲渡すると、
課税対象が半分になる優遇措置があります。
譲渡所得の課税は、次のような式で考えられます。
税額 = 譲渡所得 ×(所得税率+住民税率)
松浦氏は経営者・株主としての所得もあるため、
総合課税で最高税率55%
(所得税45%+住民税10%)
が適用される前提で、
まずは単純な利益額3億円(8億円ー5億円)
で計算してみます。
5年未満で売却した場合
3億円 ×55% = 1億6500万円
5年を超えて保有してから売却した場合
課税対象が半分になるため、
3億円 ×1/2 ×55% = 8250万円
同じ資産、同じ利益額でも、
わずか1日、保有期間の境をまたぐかどうかで、
税額が数千万円単位で変わる計算です。
なお、報道されていた
最大値3億4900万円という数字は、
この単純計算(1億6500万円)より
さらに大きくなっています。
試しに、5億円を耐用年数6年で定額法償却し、
4年分を経過したものとして計算してみます。
1年あたりの減価償却費は、
5億円÷6年で約8,333万円。
4年分では、8,333万円×4年で約3億3,333万円になります。
これを取得費から差し引くと、
取得費は5億円−3億3,333万円で
約1億6,667万円まで圧縮されます。
譲渡所得は、8億円−1億6,667万円で
約6億3,333万円。
税額は、6億3,333万円×55%で
約3億4,833万円。
報道されていた3億4,900万円と、
ほぼ一致します。
つまり、実際には
一度も減価償却していない車でも、
「6年で買値の3分の2をすでに使い切った」
という前提で税額が計算されている、
ということです。
(この試算はあくまで公表情報から
僕が逆算したもので、
耐用年数や償却方法の前提によって
金額は変わります。
正式な計算根拠として
提示されたものではない点は、
お伝えしておきます。)
こんな金額は馴染みはないが、仕組みは同じです。
中小企業経営者にとっての本当のリスクは、自社株や不動産の売却
ここまでは、超高級車
という特殊な話に聞こえるかもしれません。
でも、僕たちが日々関わっている
経営者にとっても、
構造としてはまったく同じことが起きます。
自社株の売却。
事業用不動産の売却。
M&Aによる譲渡。
こうした場面でも、
取得費の計算、保有期間、
譲渡所得の区分といった論点は、
今回のフェラーリの話と
まったく同じ枠組みで動きます。
正直に言うと、
高額資産を「持つときの判断」に
時間をかける経営者は多くても、
「売るときにどう計算されるか」まで
事前にシミュレーションしている方は、
まだ少ないというのが実感です。
売却の相談が来るのは、
たいてい売却が決まった後です。
その時点では、保有期間も取得費の扱いも、
もう動かせません。
買うときより、売るときの方が、
実は税金の設計余地は小さい。
だからこそ、持っている間に
どう考えておくかが重要になります。
資産を売る前にできること
難しいシミュレーションを、
今すぐやる必要はありません。
まずは、保有している高額資産について、
取得費の記録と、
保有からの経過年数を確認してみてください。
それだけで、売却時に
大きな差が出るポイントが見えてきます。
高額な資産ほど、
売るときの計算は複雑になります。
持っている間に、一度は税理士に相談しておく。
それが、松浦氏のような
「納得できない結果」を避ける、
一番シンプルな方法だと思います
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