利益から見る社長は、いつも一歩遅れる。

試算表をお渡しすると、
多くの社長が最初に開くページがあります。
損益計算書です。
利益がプラスなら、少し安心した顔をする。
利益がマイナスなら、表情が曇る。
それで、確認は終わりです。

でも、僕はこの瞬間、
いつも少し気になっています。
本質は「儲かっているかどうか」ではなく、
「どこを、どの順番で見る習慣があるか」

だと思っているからです。

利益は意見、現金は事実

会計には、いくつものルールがあります。
売上をいつ計上するか。
減価償却をどう配分するか。
どちらも、法律に従った正しい処理です。
でも、その選び方次第で、
同じ会社でも利益の数字は変わります
一方、通帳の残高は変わりません。
今日いくらあるかは、誰が計算しても同じです。
だから、こう言われます。
利益は意見、現金は事実
損益計算書は、会社の「解釈」を映します。
貸借対照表の現金は、会社の「事実」を映します。
どちらも大事ですが、
先に見るべきなのは、事実の方です。

パターンA:利益から見る社長/パターンB:現金から見る社長

同じ試算表を渡しても、
社長によって最初に見る場所が違います。

パターンA:
「お、今月は利益出てるね。よかった」
そこで確認は終わり。次の話題に移ります。

パターンB:
「先月から現金、いくら増えた?減った?」
利益を見る前に、まず現金の増減を確認します。
そのうえで、「増えているのに利益が出ていない」
「利益は出ているのに減っている」
というズレがないかを必ず見ます。

同じ数字を見ているのに、
次に取る行動がまったく違います。
パターンAの社長は、
資金が急に苦しくなったときに初めて気づきます。
パターンBの社長は、
苦しくなる前に、すでに手を打ち始めています。

差は能力ではなく、仕組みにしているかどうか

ここで誤解しないでいただきたいのですが、
パターンBの社長が、
特別に数字に強いわけではありません。
違うのは、
見る順番を、あらかじめ決めているかどうかだけです。
試算表が出たら、
まず損益計算書ではなく貸借対照表を開く。
現金の残高を見る。
先月との増減を見る。
これを毎月、機械的に繰り返しているだけです。
逆に言えば、
「数字を見る才能」がなくても、
見る順番さえ決めてしまえば、誰でもできます
習慣は、才能より再現性があります。

自分の基準を持っているか

もう一つ、大事なことがあります。
現金の増減を見ても、
基準がなければ判断できません
「先月より50万円減った」
これだけでは、多いのか少ないのか分かりません。
月商の何ヶ月分の現金を、
常に持っておきたいか。
これを自分の中で決めている社長は、
増減を見た瞬間に、
「まだ余裕がある」のか「そろそろ危ない」のか
すぐに判断できます。
基準を持たないまま数字だけ眺めていると、
利益が出ているのに現金が減っている
という状態に気づくのが遅れます。
売掛金の回収が遅れている。
在庫が積み上がっている。
借入の返済が、入金より先行している。
原因はたいてい、このどれかです。
これは、悪いことではありません。
事業が伸びている過程で、
自然に起きることでもあります。
問題は、それに気づくタイミングです。
基準を持っていれば早く気づけて、
持っていなければ手遅れになってから気づきます

見るだけでは、後手に回る

現金の増減を見る習慣。
基準を持って判断する習慣。
ここまでできれば、大きな前進です。
ただ、これだけでは
まだ「過去の結果」を確認しているにすぎません
先月どうだったか、今月どうかは分かる。
でも、3ヶ月後にどうなるかは分かりません。
ここで差がつくのが、
精緻な損益計画と、
それに連動した資金繰り表です。
損益計画で、今後の売上・仕入・経費の見通しを立てる。
その数字を資金繰り表に反映させて、
いつ、いくら入り、いくら出ていくかを先に並べておく。
これができていると、
「今は現金に余裕があるが、
2ヶ月後に一時的に厳しくなる」
という兆候が、事前に見えてきます。
現金残高を見ているだけでは、
今、自分がどこにいるかが分かるだけです。
この先どこに向かっているかは、
損益計画と資金繰り表を見て、初めて分かります。
今の場所しか見ていないと、
危険に気づくのは、いつも直前になってからです。

試算表を開いたら、最初に指を置く場所

難しいことをする必要はありません。
今月試算表を受け取ったら、
損益計算書を開く前に、
貸借対照表の現金残高に指を置いてください。
先月から、いくら増えたか。減ったか。
それだけを確認する。
利益を見るのは、そのあとで構いません。
そして、余力があれば、
3ヶ月先までの入出金の予定を、一枚にまとめてみてください
細かい精度は、最初は求めなくて大丈夫です。
「いつ、何が入って、何が出ていくか」
を並べるだけで、見える景色が変わります。
この順番と積み重ねを、来月も、再来月も繰り返す。
それだけで、
「儲かっているのに、なぜか苦しい」
という状態に気づくタイミングが、
確実に早くなります。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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