役員報酬を「去年と同じ」で決める社長が、見落としていること

「役員報酬、今期はどう決めましたか?」
そう聞くと、「去年と同じです」
という答えがとても多いです。
特に理由はない。
変える理由も、特にない。
なんとなく、前年の金額がそのまま続いている。
前回の記事では、税金の面から、
「法人に800万円を残して、残りを役員報酬で払う」
という基本線を書きました。
ただ、この基本線を、そのまま当てはめればいいわけではありません。
本質は、資金繰りまで見て、
はじめて報酬は決まる
ということです。

役員報酬は、1年間変えられない約束

役員報酬は、多くの中小企業で最大級の固定支出です。
しかも、一度決めたら原則として1年間変えられません。
定期同額給与というルールがあるからです。
つまり、報酬を決めるということは、
「これから12か月間、毎月この額を払い続けます」
という約束をすることです。
ここで、二つの問いを分けて考える必要があります。
一つは、「いくら払うと、税金の面で得か」。
これに答えるのが、前回の800万円ラインです。
もう一つは、「その約束を、1年間守り切れるか」。
これに答えるのが、資金繰りです。
この二つは、別の問いです。
税金の面で最適な額が、1年間払い続けられる額とは限らない。
だから、片方だけでは決められないのです。
では、実際にはどう決めるか。
僕は、下限と上限の幅で考えるのがいいと思っています。
下限は、個人側から決めます。
生活費と、個人で積み上げていきたい資産の額。
社長の家計の見通しがないと、下限は決まりません。
上限は、会社の資金繰り側から決めます。
来期、利益だけでなく、お金がいくら残るのか。
手元資金の目安は、以前の記事でも書いた固定支出の6か月分です。
それを割り込まない範囲が、払える上限になります。
800万円ラインは、この幅の中で使う目安です。
幅の中に収まれば、基本線どおりに。
収まらなければ、資金繰りを優先する。
この順番が大切です。

金融機関は、役員報酬をこう見ている

報酬の決め方は、税金だけでなく、金融機関の評価にも響きます。
まず、報酬を削って利益を出しても、効果は思ったほどありません。
金融機関は、役員報酬を適正な水準に置き直して、
会社の本当の実力を見ます。
報酬を極端に下げて黒字に見せても、
そのまま評価されるわけではないのです。
逆に、報酬が足りずに、社長が会社のお金を使ってしまうケース。
これは役員貸付金になります。
金融機関からは「会社のお金が社長に流れている」と見られ、
評価は大きく下がります。
そして、意外と見落とされがちなのが未払いです。
報酬を高めに決めたものの、資金が足りずに払えない。
帳簿上は、未払の役員報酬として残ります。
この場合、お金を受け取っていないのに、
個人の所得税や社会保険料はかかります。
手元にお金がないのに、負担だけが発生する。
税金だけで、かなり損をすることになります。
報酬は、低すぎても、払えないほど高すぎても、評価に響く。
だからこそ、最初の設定が大事です。

報酬は、事前の計画で決まる

報酬は、原則として期首から3か月以内にしか変えられません。
期が始まってから考えていては、
判断の材料が揃わないまま決めることになります。
だから、決算を迎える前に、
今期の着地見込みと来期の計画を持っておくことが必要です。
来期の数字は、一つではなく、
強気・標準・慎重の3パターンで見ておくのがおすすめです。
売上が思ったほど伸びなかったら。
大きな支出が重なったら。
そのときでも、報酬を払い続けられるか。
報酬は、慎重ケースでも払い続けられる額に置く。
ここで効いてくるのが、
精緻な損益計画と、それに連動した資金繰り表です。
損益計画だけでは、お金が足りるかは見えません。
資金繰り表だけでは、利益と税金が見えません。
両方がつながって、はじめて報酬の上限が見えてきます。
顧問先を見ていても、
損益の見込みまでは立てても、
資金繰りまでつなげて報酬を決められている会社は、
まだまだ多くありません。

期中に計画とずれたときの打ち手

どれだけ計画を立てても、期中にずれることはあります。
上振れしたとき。
利益が予想以上に出ても、期中に報酬は上げられません。
事前確定届出給与という、あらかじめ届け出た役員賞与の仕組みを使うか、
次の期の改定で反映することになります。
事前確定届出給与は、届け出た通りに支給する必要があるので、
使い方には注意が必要です
下振れしたとき。
業績が著しく悪化した場合は、期中でも報酬を減額できます。
業績悪化改定事由と呼ばれるものです。
一方で、避けたいのが、未払いのまま放置することです。
前の見出しの通り、税金で損をするうえ、金融機関の評価にも響きます。
それでも資金が足りないときは、
個人に移しておいたお金を、役員借入金として会社に貸す。
前回の記事で、早めに個人に移しておく意味を書いたのは、
こういう場面があるからでもあります。

来期の報酬を決める前に、やっておきたいこと

難しく考える必要はありません。
まずは、次の4つから。

・今期の着地見込みを出す
・来期の損益計画を3パターンで作り、資金繰りまでつなげる
・社長個人の「下限」を一度言語化しておく
・損益と資金繰りの両方を見て、報酬を決め直す

「去年と同じ」は、楽です。
でも、会社の状況は毎年変わります。
800万円ラインで税金を見て、資金繰りで約束を守れるかを見る。
この両方を見て、毎年報酬を決め直す。
それが、社長にとっても会社にとっても、
一番健全な決め方だと思っています。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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