「決算は黒字なのに、
なぜか通帳の現預金が減っている」
経営者の方から、
こういう相談を受けることがあります。
利益は出ている。
でも、手元の現預金は増えない。
むしろ減っている。
この違和感の正体を知らないまま、
毎月なんとなく不安を抱えている経営者は、
実はかなり多いです。
黒字と現預金が残ることは、イコールではない
「黒字なら、現預金は残るはず」
多くの人がそう思っています。
でも、これは半分しか正しくありません。
黒字と現預金が残ることは、
実はイコールではないのです。
理由はシンプルです。
会社はPL(損益計算書)ではなく、
BS(貸借対照表)と
現預金の動きで潰れるからです。
決算書の利益は、あくまで活動の記録。
手元の現預金がどう動いているかは、
別に見なければ分かりません。
利益が出ていても、
そのお金が別の場所に姿を変えて
出ていっていることがあります。
その「よくある出ていき方」が、
在庫の増加・借入の返済
そして法人税等の納税です。
小売業のA社を例に見てみます
イメージしやすいように、
小売業のA社の数字で見てみます。
話を単純にするため、
売上も仕入や経費も
すべて現金決済という前提で見ていきます。
また、減価償却費は
今回の設定には含めていません。
実際は減価償却費の分だけ、
手元に残るお金は少し多くなる点は
補足しておきます。
年商4億円。
粗利率40%。
営業利益800万円の黒字。
数字だけ見れば、
しっかり利益の出ている会社です。
ところが、A社の手元現預金は
この一年で大きく減っていました。
原因は、在庫の増加・借入返済・納税の
3つが同時に効いていたことにあります。
原因① 在庫が増えた分、現預金が出ていった
1年前のA社は、業界平均並みのペース
(年6回転、在庫日数60日)で
商品が回っていました。
年間の仕入原価は
2億4,000万円(年商4億円×原価率60%)なので、
そのときの在庫の水準は、
2億4,000万円 ÷ 360日 × 60日 = 4,000万円
ところが今期、商品の売れ行きが落ち、
在庫の回転が悪化し、
日数にして90日まで伸びました。
同じ計算式で、今期末の在庫は、
2億4,000万円 ÷ 360日 × 90日 = 6,000万円
つまりこの1年で、
在庫は4,000万円から6,000万円へ、
2,000万円増えたことになります。
ここが重要なところです。
在庫を「6,000万円持っている」こと自体は、
現預金が減った理由になりません。
在庫が「2,000万円増えた」ことが、
現預金が減った理由になります。
仕入れの支払いは先に発生しますが、
対応する売上が同じペースで立たなかったため、
本来は現預金として戻ってくるはずのお金が、
商品という形のまま、
会社の中に留まってしまったのです。
しかも、この在庫の増加は、
決算書の「利益」を押し下げません。
仕入れ代金は全額現預金として出ていきますが、
経費になるのはあくまで売れた分だけです。
売れ残った2,000万円分は
経費にならず資産に変わるため、
「利益の数字(800万円)」は減りません。
つまり、決算書上は「800万円の黒字」
と綺麗に見えていても、
その裏側で現預金だけが
2,000万円確実に減っている
というズレが発生するのです。
原因② 借入の返済が利益を上回っている
もう一つの原因が、借入の返済です。
A社は3年前、店舗拡大のために
長期借入5,000万円を行っていました。
月々の元金返済は80万円。
年間にすると960万円です。
ここで見落とされがちなのが、
返済は経費にならないという事実です。
利息は経費になりますが、
元金の返済はPL上どこにも出てきません。
つまり、A社の営業利益800万円に対して、
年間960万円の返済が発生している。
利益だけでは、返済しきれていない構造です。
原因③ 見落とされがちな、納税というもう一つの流出
そしてもう一つ、忘れられがちなのが
法人税等の納税です。
利益が出れば、当然そこに税金がかかります。
実効税率を30%と仮定すると、
営業利益800万円に対しての税負担は、
800万円 × 30% = 240万円
これも当然、現預金で支払うお金です。
利益が出ている以上、税金は避けられません。
「黒字だから税金を払う」のは
当たり前のことですが、
在庫や返済とあわせて見たとき、
利益が出るたびに、
その一部が確実に現預金から出ていく
という事実は、意外と見落とされています。
結局、いくら現預金が減ったのか
ここまでの数字を、全部足し引きしてみます。
営業利益(現預金ベースで増えるはずのお金)
+800万円
法人税等の納税(現預金が出ていった分)
−240万円
在庫の増加(現預金が出ていった分)
−2,000万円
借入の返済(現預金が出ていった分)
−960万円
800万円 − 240万円 − 2,000万円 − 960万円
= ▲2,400万円
A社は、営業利益800万円を稼ぎながら、
差し引きで2,400万円、
手元の現預金を減らしていたことになります。
決算書の「黒字」という
一つの数字だけを見ていたら、
絶対に気づけない金額です。
見えている数字と、見えていない現預金の動き
在庫の増加も、借入の返済も、納税も、
決算書の「利益」という数字だけを見ていては、
その大きさに気づけません。
在庫は資産が増えるだけ。
返済は負債が減るだけ。
納税は、利益が出た証拠でもあります。
どれも、PL上の利益をまったく動かさずに、
現預金だけを静かに減らしていく
という共通点があります。
A社のケースは、
この3つが同時に、
しかも短期間に起きていた例です。
黒字なのに手元の現預金が
大きく減っていく状態は、こうして生まれます。
「黒字」の次に見るべき数字
決算書の利益だけを見ていると、
この動きには気づけません。
見るべきは、
在庫が前期と比べてどれだけ増えているか、
借入の返済額が利益に対してどれくらいの水準か、
そして納税額まで含めて、
現預金が減っていないかです。
決算書の黒字という数字の裏側に、
在庫の増加・返済・納税という
「見えない現預金の動き」がないか。
これを一度確認するだけで、
数年先の資金繰りの見え方は、
かなり変わってきます。
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