「出口はまだ先の話なので」
経営者の方とお話ししていると、
こういう言葉をよく聞きます。
廃業するのか、誰かに継がせるのか、
それとも売却するのか。
まだ決めていないし、
決める必要もまだないと感じている方が多いです。
でも、実際に日々の数字を見ていくと、
出口の影響はもう出ています。
融資をどう受けるか。
役員報酬をどう設定するか。
損益計画をどう描くか。
これらはすべて、
出口によって正解が変わる判断です。
出口を決めないまま経営判断をすると、
方向性がバラバラになる。
今日はその話を整理します。
会社の出口は、廃業・M&A・上場・承継の4つ
まず、会社の出口を整理します。
大きく分けると、4つです。
廃業、M&A、上場、事業承継。
このうち事業承継は、
さらに親族内承継と親族外承継
(役員や社員へのMBO、あるいは第三者への譲渡)
に分かれます。
どれが正解ということはありません。
ただ、この4つのどれを目指すかで、
経営戦略はまったく別物になります。
同じ数字でも、出口によって重荷にも壁にも強みにもなる
たとえば、純資産(株価)が
5億円ある会社があるとします。
この5億円という数字、
出口によって意味がまったく違います。
・親族内承継を選ぶ場合。
5億円は、そのまま
相続税・贈与税の重さになります。
相続税は単純な計算はできませんが、
仮に法定相続人が1人だけで、
他に財産がないという単純なケースなら、
基礎控除後の金額に税率をかけると、
税額はおおよそ1.9億円前後
という規模になります。
5億円のうち、4割近くが
税金として出ていく計算です。
後継者となる息子さんや娘さんは、
この税負担をどう乗り越えるか
先に考えなければなりません。
(実際は相続人の数や他の財産、
事業承継税制による
納税猶予・免除の適用可否で大きく変わります。
このあたりの制度の話や、
他の出口(廃業・M&A・上場)の
具体的な進め方についても、
それぞれ別記事で詳しく書く予定です。)
・従業員承継(MBO)を選ぶ場合。
後継者個人に5億円を用意する資力は、
まずありません。
そこで、後継者が設立した受け皿会社が
金融機関から資金を借りて株式を買い取り、
その借入を会社の将来の利益で返していく、
という形を取ります。
ただ、この借入には後継者個人の連帯保証が
求められることが多く、
「会社が返す」形をとっていても、
実質的には個人がリスクを背負う
構造になっています。
・M&Aを選ぶ場合。
純資産は逆に、
高い方が理論的には評価が上がります。
買い手から見れば、
それだけ体力のある会社だという
評価になるからです。
ただし、役員報酬が極端に
低く抑えられているなど、
数字と実態が乖離していれば、
そこは別の問題として見られます。
・廃業を選ぶ場合。
実は無税ではありません。
会社を清算すると、
残った財産を株主に分配しますが、
これはみなし配当課税の対象になり、
場合によっては相続税よりも
重い税負担になることもあります。
「畳めば税金がかからない」というのは誤解です。
同じ「純資産5億円」という数字が、
親族内なら重荷になり、
従業員承継なら壁になり、
M&Aなら強みになり、
廃業なら別の形の税負担になる。
出口を決めないまま経営を続けると、
この数字をどう動かすべきかの判断軸が、
ずっと定まらないままになります。
損益計画も、出口が決まっていなければ描けない
出口の影響は、株価だけではありません。
損益計画にも直結します。
損益計画とは、
将来の会社の姿を数字にしたものです。
でも、その「将来の姿」は、
出口によってまったく違います。
M&Aを見据えるなら、
右肩上がりの成長曲線が必要です。
買い手は、将来性を数字で見ているからです。
承継を見据えるなら、
急成長より安定と再現性が求められます。
後継者が引き継いだあとも、
同じように回せる数字であることが
大事だからです。
出口が曖昧なまま損益計画を作ると、
「なんとなく右肩上がり」の、
説得力のない計画になりがちです。
出口が定まっていれば、
損益計画に一本の軸が通ります。
そして、それに連動した資金繰り表も、
精度が上がっていきます。
融資審査で見られるのは、
自己資本の厚さだけではありません。
この、一貫した損益計画と資金繰り表
があるかどうかが、
実は同じくらい見られています。
役員報酬・配当も、出口から逆算する経営判断
役員報酬や配当の水準も、
出口戦略の一部です。
M&Aや上場を見据えるなら、
役員報酬を抑えて利益を厚くし、
会社の評価を上げていく方向になりやすいです。
親族内承継を見据えるなら、
利益を厚くしすぎると、
それがそのまま株価を押し上げ、
相続税・贈与税の負担につながります。
ここでは、報酬や配当をどう設計するかが、
将来の税負担に直結します。
「今の利益をどう見せるか」という判断は、
実は「将来、誰にどう渡すか」という判断と
セットになっています。
正直に言うと、うちの事務所でも、
出口から逆算して、
ここまで踏み込んだ提案ができているかというと、
まだ発展途上だと感じています。
目の前の決算や融資の相談には対応できても、
その先の出口まで含めて設計するところは、
まだ道半ばです。
出口を意識するだけで、数字の見え方は変わる
出口を今すぐ決める必要はありません。
ただ、次に融資の相談をするとき、
次に役員報酬を見直すとき。
その判断の先に、
どんな出口があり得るかを、
一度だけ思い浮かべてみてください。
それだけで、
同じ数字の見え方が変わってきます。
出口を意識した経営判断は、
そういう小さな積み重ねから始まります。
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