「安いから買う」がお客様を逃す理由

「思い切って値下げしたのに、なぜか客足が減ったんです」
先日、あるクライアントの経営者から、こんな相談を受けました。
競合が価格を下げてきたので、対抗して自社も値下げした。
でも、売上は伸びるどころか、じわじわ減っていったそうです。
「値段を下げれば選ばれる」
多くの経営者が、一度はそう考えます。
でも、実際はそう単純ではありません。

本質は価格じゃない

僕は、この相談を聞いて、ある視点をお伝えしました。
お客様が何かを買うとき、
本当に見ているのは価格そのものではありません。
「欲しい理由」があるかどうかです。
安いから買う。
これは一見、合理的な理由に見えます。
でも、安さだけで集まったお客様は、
もっと安いところが出てくれば、すぐそちらに移ります。
大事なのは、価格を下げることではなく、
「これが欲しい」と思ってもらう理由を、こちらで設計することです。

二つの会社を比べてみる

同じ業界の、二つの会社を想像してください。

A社:競合対抗で値下げを続ける。
お客様は増えるが、価格が下がるたびに離れていく客も多い。
利益はどんどん薄くなる。

B社:価格は下げない。
その代わり、選ばれている理由を見せる工夫をする。
利用者の声、導入実績、限定性のある提案。
結果、価格が高くても選ばれ続ける。

同じ市場にいても、行き着く先はまったく違います。
A社は価格競争に飲み込まれ、B社は価格競争から抜け出しています。

人は「みんなが選んでいるもの」を欲しくなる

この違いを調べていて見つけたのですが、
人間の心理には社会的証明と呼ばれる傾向があるそうです。
自分で判断する材料が少ないとき、
人は「他の人がどうしているか」を参考にする。
行列ができている店に、つい並びたくなる。
レビューの多い商品を、つい選んでしまう。
これも、その一例だと言われています。
さらに、この「みんなが選んでいるものを選びたくなる」
心理は、バンドワゴン効果と呼ばれ、
もともとは経済学の分野で提唱された考え方だそうです。
需要が需要を呼ぶ、つまり
「売れているから、もっと売れる」
という現象を説明するために使われてきました。
つまり、「欲しいかどうか」は、
必ずしも自分だけで決めているわけではなく、
周りのトレンドに合わせて
決まっている部分が大きい
ということです。

この心理は、マーケティングに使える

ここで大事なのは、この心理を否定することではありません。
むしろ、経営者側がうまく活用できる材料でもあります。
例えば、こういう工夫です。
導入企業や利用者の声を、具体的な数字とともに見せる。
人気順やランキングで、選ばれやすさを可視化する。
期間や人数を区切った限定性で、
「今、動いている」空気をつくる。
これは、士業やBtoBのサービスでも応用できます。
「価格で選ばれる」関係から、
「理由があって選ばれる」関係に変えていく。
そのための材料として、この心理はとても有効です。

ただし、トレンドは固定ではない

ここで、一つ注意点があります。
「今、みんなが選んでいる」という理由づけは、
あくまで今この瞬間のものです。
トレンドは常に変化します。
そして、世の中が本当に必要としているものも、
同じように変化していきます。
一度うまくいった見せ方や商品が、
数年後も通用するとは限りません。
むしろ、うまくいった成功体験ほど、
変化に気づくのを遅らせることがあります。
業績が落ちてきた会社ほど、
「時代が変わったから仕方ない」
「今は業界全体が厳しいから」
という言い方をしがちです。
でも、実際には、どんな時代にも、どんな業態にも、
伸びている会社と、そうでない会社の両方が存在します。
時代のせいにできるなら、
その時代の会社は全部沈んでいるはずですが、
実際はそうなっていません。
差がついているのは、時代そのものではなく、
その時代の変化に、どれだけ向き合い続けたかです。
だから、今のトレンドにうまく乗ることよりも大切なのは、
変化を前提に、考え続ける姿勢そのものです。

考え続けるのは、トップだけの仕事ではない

そして、これはトップ一人が意識していれば済む話ではありません。
経営者がどれだけ変化に敏感でも、
現場が同じ感覚を持っていなければ、
気づきは実行に変わりません。
お客様の反応の変化に、一番先に気づくのは、
現場のスタッフであることも多いからです。
だからこそ、変化を意識し、考え続けることは、
組織全体で共有していく必要があります。
正直に言うと、うちの事務所も、この点はまだ道半ばです。
サービスの見せ方や、選ばれる理由の言語化は、
僕一人で考えていることも多い。
スタッフを含めて、
一緒に考える仕組みまでは、まだつくれていません。
それでも、意識しているかどうかで、
日々の判断は少しずつ変わってきていると感じています。

考え続ける、という視点

「安いから買う」のではなく、「欲しいから買う」。
この違いをつくるのは、価格ではなく、理由の設計です。
そして、その理由は、トレンドとともに変わり続けます。
一度うまくいった型に安心せず、常に見直し、考え続けること。
それを、経営者だけでなく、組織全体で意識できるかどうか。
そこに、長く選ばれ続ける会社と、
そうでない会社の差があるのだと思います。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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