抽象度は、その人の得意分野への通り道になる

「具体的に教えるほど、いい指導だ」
そう信じている方は多いと思います。
手順を一から十まで教える。
迷わないように、失敗しないように、
細かく指示を出す。
それが親切で、丁寧な指導だとされています。
でも、僕はそうは思っていません。
本質は、具体的に教えることではなく、
抽象度をどれだけ相手に
渡せているかだと思っています。

具体的すぎる指示が生む「思考停止」

こんな二つの上司を想像してください。

パターンA:手順を一から十まで教える上司
「まずこれをやって、次にこれ、そのあとこれ」
細かく、丁寧に、順番通りに。

パターンB:目的と原則を伝える上司

「この作業は、お客様に不安を与えないためにやる。
だから、優先すべきはスピードより正確さだよ」

パターンAで育った人は、
言われた通りにはできます。
でも、いつもと違う場面が来ると、止まります。
「教わっていないので、わかりません」
これは、その人の能力の問題ではありません。
教え方が、考える機会を奪っていただけです。
パターンBで育った人は違います。
初めての場面でも、
「目的から考えると、こうすればいいはずだ」
と、自分で判断できます。
正直に言うと、僕自身、
若手の頃は言われた通りに
やる仕事の方が楽でした。
一歩目に迷わないし、失敗も少ない。
でも、それは同時に思考停止でもありました。
自分で考えて、試行錯誤しながら
進めた仕事の方が、
時間はかかったし、失敗も多かった。
それでも、成長できたし、やりがいもありました。
振り返ると、僕を育てたのは、
「答えを教えてもらった経験」ではなく、
「自分で考えさせられた経験」の方でした。

守破離という考え方

日本には昔から、
守破離(しゅはり)という考え方があります。

守:型通りに、具体的に教わる段階
破:型をベースに、自分なりの工夫を加える段階
離:型から離れ、自分の判断基準で動く段階

ここで誤解しやすいのが、
「抽象度を渡すこと=離」だという捉え方です。
そうではありません。
抽象度を渡すことは、離そのものではなく、
相手を離に近づけていくための手段
です。
守の段階にいる人には、具体的に教える。
破の段階にいる人には、少しずつ余白を残す。
離に近づいてきたら、目的や原則だけを伝えて、
やり方は本人に委ねる。
相手がどの段階にいるかによって、
渡す抽象度のレベルを変えていく。
これが、指導する側に求められる
感覚だと思います。

抽象度は、その人の得意分野への通り道になる

抽象的な目標を渡すと、何が起きるか。
たどり着き方が、人によって変わります。
同じ「お客様満足度を上げる」という目標でも、
ある人は丁寧な説明で信頼を積み上げ、
ある人はスピードで満足度を上げる。
やり方は違っても、目的地は同じです。
そして、その”変わり方”の中にこそ、
その人の強みが出ます

具体的な指示は、再現性は高いですが、
その人の得意分野を通り道にしません。
言われた通りにやるだけなら、
得意なやり方を選ぶ余地がないからです。

抽象度を上げるほど、ミッションやビジョンが大切になる

ここで一つ、疑問が出てきます。
「目的地は同じ」と言うけれど、
その目的地は何によって決まるのか。
その答えが、ミッションやビジョンです。
抽象度を上げるというのは、
「手順」を教えないという意味であって、
「目的地」を教えないという意味ではありません。
むしろ、抽象度を上げれば上げるほど、
その人が向かう方向を示すものが必要になります。
それが、会社のミッションやビジョンです。
手順を細かく教えている間は、
実はミッションやビジョンがなくても、
組織は一応回ります。
言われた通りにやれば、
とりあえず仕事は進むからです。
でも、抽象度を上げて
「やり方は任せる」と言った瞬間、
向かう方向がバラバラになる
リスクが生まれます。
このとき、
「うちの会社は何のためにあるのか」
「どんな状態を目指しているのか」
というミッション・ビジョンが共有されていれば、
やり方は人によって違っても、
向かう先はブレません。
逆に言うと、
具体的な指示を減らすなら、
その分だけミッションやビジョンを
濃く伝える必要がある
ということです。
抽象度を上げることと、
方向性を示すことは、セットです。
片方だけでは、自由に見えて、
ただの放任になります。

抽象度は、相手と場面によって変える

ただし、これは
「なんでも抽象的に伝えればいい」
という話ではありません。
抽象度を上げすぎると、
「結局、何をすればいいのか」
がわからなくなります。
特に、次のような場面では、
具体的な指示の方が有効です。

・新人で、まだ型を持っていない
・法令順守など、判断の余地を残してはいけない業務
・一つのミスが大きな損失につながる業務

こういう場面で抽象度を上げすぎるのは、
不親切ではなく、危険です。
逆に、経験を積んだ人に対して、
いつまでも具体的な指示だけを出し続けると、
その人は成長する機会を失います。
相手が今、守・破・離のどの段階にいるか。
その業務が、どれだけ判断の余地を許すか。

この二つを見ながら、
渡す抽象度を調整する。
これが、指導する側の
腕の見せどころだと思います。

「教えすぎない」ことの勇気

具体的に教えた方が早いし、
自分がやった方が確実だと、
つい思ってしまう場面は多くあります。
それでも、あえて答えを渡さずに、
「どう思う?」と聞いてみる。
その一瞬の我慢が、
相手の“離”への一歩になると信じています。
難しいことは何もありません。
今日、指示を出すとき、
最後にひとこと、目的を添えてみてください。
「これをやって」だけで終わらせず、
「これをやるのは、〇〇のためだから」
と一言つける。
それだけで、相手の頭の中に、
考える余地が生まれます。
教えすぎないことは、
放っておくこととは違います。
相手が自分で考えるための余白を、
意図的に残すこと
です。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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