銀行に強い経営者は、現金の意味を知っている。

「先月と同じ条件で申し込んだのに、
今回はやたらスムーズだった」
顧問先の経営者から、
こんな話を聞くことがあります。
逆に、「去年より業績がいいのに、
なんか担当者の反応が鈍い」
というケースも。
業績だけが判断基準なら、
こういう逆転は起きにくいはずです。
でも、実際には起きます。
その差の多くは、現金預金の残高にあります。
銀行員が決算書を見るとき、
最初に目が行くのは利益ではなく現金です。
今日は、銀行員が現金を
どう見ているかを整理します。
知っておくだけで、
融資の場面での動き方が変わります。

銀行員が「利益より現金」を見る理由

銀行の絶対原則は、
貸したお金が返ってくるかどうかです。
利益は将来の話です。
「これから稼いで返します」という約束は、

不確実性が高い。
一方、現金は今この瞬間の事実です。
嘘がつけない数字です。
だから銀行員は、利益よりも現金を重視します。
手元に現金があれば、
たとえ業績が一時的に落ちても、
当面の返済はできる。
その安心感が、融資判断に直結します。
経営者の感覚と、
銀行員の感覚はここでズレやすい。
「利益が出ているから大丈夫」は、
経営者の論理です。
銀行員の論理ではありません。

手元流動性比率——数字の意味と、その限界

よく使われる指標が手元流動性比率です。
現金預金が月商の何ヶ月分あるか、
という見方です。
ざっくり言うと、こういう見え方になります。

  • 月商1ヶ月分以下:危険水域。日々の資金繰りに追われている状態。銀行は保証協会頼みの融資しか出しにくい。
  • 月商2ヶ月分前後:銀行員が「妥当」と言う水準。苦しくはないが、余裕もない。
  • 月商3ヶ月分超え:経営者が交渉できるライン。銀行側の態度が変わり始める。

ただし、これはあくまで目安のひとつです。
銀行の融資判断は総合的なものであり、
現金の額だけで決まるわけではありません。
ここで正直に言うと、銀行の担当者全員が、
実態を総合的に見抜く能力を
持っているわけではありません。

担当者によっては、
形式的な数字を中心に判断することも多い。
だからこそ、こうした指標を
知って対策しておく意味があります。
実態が良くても、
形式的な数字が弱ければ評価は下がる。
逆に、形式的な数字を整えておけば、
無用な疑いを受けにくくなる。
「知っている人が有利」という側面が、
融資の場面には確実にあります。
ちなみに、手元流動性を計算するときは
注意点が一つあります。
融資を受けている銀行に預けている定期預金は、
いざというとき自由に動かせないケースが多い。
除外して計算するのが正確です。
銀行員がよく言う「月商2ヶ月分が理想」
という数字も、鵜呑みにしないほうがいいです。
苦しくもないし余裕もない。
銀行にとって都合のいい水準です。
目指すなら、月商3ヶ月分以上です。

現金は「借入金とのバランス」で見られる

銀行員は現金の額だけを
見ているわけではありません。
常に借入金との比較で見ています。
指標のひとつが「ネットキャッシュ」です。
現金預金から借入金を引いた数字です。

  • プラスなら実質無借金。借金はあっても、今の現金で返そうと思えば返せる状態。
  • マイナスなら、あといくら現金を積めば実質無借金になるか、の差分として見られます。

現金が多くても借入過多なら評価は上がりにくい。
現金が少なくても
借入がほぼなければ評価は変わる。
絶対額ではなくバランスで見ている
というのが銀行員の視点です。

儲かっているのにお金が減る会社は疑われる

銀行員が警戒するパターンがあります。
利益は出ているのに、現金が減っている。
これは、帳簿上の利益が実態を
反映していない可能性として見られます。
原因としてよくあるのは、
売掛金や在庫の増加です。
売上は計上されているが、入金がまだ来ていない。
在庫を抱えたまま現金が先に出ていく。
こうした構造を理解していれば問題ないのですが、
説明できない経営者は「管理能力が不足している」と判断されます。
もっと悪いケースでは、
粉飾決算の疑いを持たれることもあります。
利益と現金のズレを自分で説明できるかどうか。
これが銀行員から見た
「信頼できる経営者かどうか」
の判断材料になっています。

メインバンクとの関係は「入出金の場所」で決まる

現金の残高と同時に、銀行員が見るのが
どの銀行で入出金をしているかです。
給与の振込、仕入先への支払い、売上の入金口座。
これらが一番お金を借りている銀行に
集まっているかどうかで、
関係性の深さを測ります。
日々の入出金を把握できている銀行は、
決算書では見えない実態の
キャッシュフローを知ることができます。
これが、担当者にとっての
「信頼の証拠」になります。
融資を一番積極的にしてくれている銀行に、
入出金・預金を集めておく。

これは形式的に見えますが、
メインバンクとの関係を強くする上で
実質的な意味を持ちます。
逆に、「うちに預金を置いてください」
「入出金をうちでやってください」
と言ってこない銀行は注意が必要です。
保証協会任せで、
関係を深める気がない可能性があります。

まず、今日の数字を確認する

銀行員の見方を知ったからといって、
すぐに何かが変わるわけではありません。
ただ、見られている場所を知っていれば、
準備できることがあります。
まず確認してほしいのは、
自社の現金預金が月商の何ヶ月分あるか
という一点です。
3ヶ月分に届いていなければ、そこを目標にする。
利益が出ているのに現金が増えていなければ、
その理由を自分の言葉で説明できるようにする。
メインバンクへの入出金の集め方を、
一度見直してみる。
どれも、今日から動けることです。
銀行との関係は、融資を申し込む瞬間ではなく、
日常の積み重ねで決まっています。


YouTube「にいみ税理士のお悩み相談室

YouTube / にいみ税理士のお悩み相談室

日々の会計・税務・経営支援の現場でよくあるお悩みを解決!
さらに、節税のポイント、資金繰り、事業計画のヒントなどをわかりやすく解説しています。
気になる方は、ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします!

よかったらシェアお願いします
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

目次