「適正な利益率って、何%ですか?」
顧問先の経営者から、こういう質問をよく受けます。
答えは出します。
ただ、その数字に縛られてほしくないという話を、
必ずセットで伝えるようにしています。
今日は、財務指標の「適正値」をどう考えるか、という話です。
なぜ「適正値」の動画や記事が溢れるのか
YouTubeやネットで
「適正な自己資本比率」「適正な借入金の目安」と検索すると、
記事も動画もたくさん出てきます。
理由はシンプルで、みんながその答えを求めているから、
コンテンツを出せば見てもらえるからです。
でも、本質はこうです。
会社によって違うから、誰も正解を知らない。
分からないのは当たり前で、会社の数だけ答えがある。
だから動画や記事が乱立する。
簡単に「業界平均は〇%です」
と答えを出してくれる人ほど、疑ってみてください。
その数字は、統計上の平均か、
どこかの誰かが決めた一般論に過ぎないことがほとんどです。
「うちの適正値が分からない」
と感じているなら、それは当然のことです。
一般論の数字は「地図」。でも目的地は自分で決める
ただ、業界平均や一般的な指標を知ることには意味があります。
外部から見る目線として、
銀行や取引先、投資家はその視点で見てくるからです。
僕も顧問先に指標を伝えることがあります。
求められますし、外部との対話に使える共通言語として
必要なタイミングもある。
ただ、それは出発点であって、正解ではありません。
一般論の数字は地図として使う。
でも、目的地は自分で決める。
この順番を間違えると、数字に縛られた経営になります。
外部によく見てもらうことや、資金調達が目的になってしまう。
それは手段と目的が逆転しています。
在庫・利益率・借入金・自己資本比率、すべてに言えること
在庫から見てみます。
在庫回転率の目安、よく言われます。
でも、それだけで適正在庫は決まりません。
サプライチェーンの混乱が懸念される局面や、
原材料価格が上昇している局面では、
在庫を多めに抱えることがリスクヘッジであり、戦略的な判断です。
その瞬間だけ切り取れば「過剰在庫」に見えても、
文脈で見れば正しい選択です。
銀行もそこまで見ています。
状況の説明がきちんとできれば、
過剰在庫を問題視されることはありません。
逆に、トレンドの変化が激しい商品や、
資金繰りが厳しい局面では絞ることが正解になる。
次の仕入れ代金を支払える現金が手元にあるかどうか。
それが在庫量を決める本当の基準です。
利益率も同じです。
修繕費を先送りしたり、教育費を削って利益率を上げても、
将来の衰退を招くだけです。
見た目の数字がよくなるだけで、会社の体力は落ちている。
一方で、市場シェアを拡大するために戦略的に値下げする、
優秀な人材や設備に先行投資する。
こうした判断は利益率を下げますが、未来をつくることになります。
業界平均と比べることに意味はほとんどありません。
自社が成長していくために必要な投資ができているか、
その現金があるか。 これが本質です。
借入金も、一概には言えません。
金利を上回るリターンが見込める投資機会があるなら、
借りて動いた方がいい。
手元現金だけで動くより、外部資金を使って
成長のスピードを買うという発想です。
一方で、業績が一時的に厳しくなった局面で、
返済を急いで手元現金を減らすことが正解とは限りません。
多少営業利益で利息を賄いきれない時期があったとしても、
手元を厚くしながら投資を続け、3ヶ月・半年かけて判断する
という選択もある。
慌てて返済するより、現金を手元に置いておく方が、
次の一手を打ちやすいことが多いです。
自己資本比率も、高ければいいとは限りません。
借入でレバレッジをかけて成長する局面では、
比率が下がるのは当然です。
それは悪いことではなく、攻めている証拠でもある。
逆に、比率を高めることだけを意識して必要な投資を控えていれば、
会社の成長は止まります。
見るべきは数字の美しさではなく、
万が一のとき、会社が再起できるだけの現金を持っているかです。
どの指標も、決め手は同じです。
今の資金繰りと、自分がこの会社をどうしたいか。
この2つから逆算して、その時々の適正値が決まります。
適正値を決めるのが、経営者の仕事
適正値は、外から与えられるものではありません。
どれほど数値が整っていても、現金が尽きれば会社は終わります。
だから、すべての判断の前提は現金の裏づけです。
その上で、自分の会社をどうしたいかという意思と、
足元の現金という制約条件を掛け合わせて、自分で決める。
去年の適正と今年の適正は違っていい。
来年にはまた変わる。
それが普通です。
適正値が変化していくこと自体が、会社が動いている証拠です。
固定された正解を追いかけるより、
その時々に応じてチューニングし続ける意思を持つこと
の方がずっと大切です。
これを自分で考え、自分で決めること。
それ自体が経営判断であり、
経営者にしかできない仕事だと思っています。
今日できること
自社の財務指標を一つ取り上げて、
二つの問いを立ててみてください。
一つ目は、「外部からどう見られているか」。
銀行や取引先の目線で、今の数字がどう映っているかを確認する。
二つ目は、「自分はこの会社をどうしたいか」。
その意思と、今手元にある現金を起点に、
自社にとっての適正値を自分なりに言語化してみる。
この二つがセットで考えられるようになると、
指標との付き合い方が変わります。
数字に振り回されるのではなく、
数字を使って経営する感覚に近づいていきます。
一般論の答えを探すより、自分の答えを持つこと。
その積み重ねが、経営者としての判断軸をつくっていきます。
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