先生、消費税1%になるらしいですね。
うち、飲食店だから助かります」
先日、あるクライアントさんから
こんな相談を受けました。
食料品の消費税が8%から1%に下がる。
このニュースを見て、
同じように感じている経営者の方は
多いのではないでしょうか。
正直、そう思いたくなる気持ちはわかります。
でも、本質はそこではありません。
税率が下がることと、
資金繰りが楽になることは別問題です。
業種によっては、
むしろ資金繰りが厳しくなります。
何が変わるのか
2027年4月から2年間、
食料品にかかる消費税が
8%から1%に下がります。
時限立法なので、
2029年にはまた元に戻る予定です。
なぜ0%ではなく1%なのか。
理由はレジシステムの改修コストです。
0%対応には1年以上かかる一方、
1%であれば3ヶ月ほどで対応できる。
そういう事情から、1%という中途半端な数字に
落ち着いたようです。
ここまでは、ニュースで見た方も
多いと思います。
問題は、ここから先です。
ここから先は具体的な数字を使って説明しますが、
金額そのものは気にせず、
流れだけ追ってもらえれば大丈夫です。
飲食店で起きる「税負担は増えるのに、手取りは変わらない」現象
売上200万円の飲食店で考えてみます。
原価率25%とすると、仕入れは50万円です。
人件費60万円、家賃など経費20万円とします。
改正前
売上にかかる消費税は10%で20万円。
仕入(食材)50万円にかかる消費税は8%で4万円。
家賃など20万円にかかる消費税は10%で2万円。
差し引き、納める消費税は14万円です。
改正後
売上にかかる消費税は変わらず20万円。
仕入れの消費税は1%になるので、
控除できる額は0.5万円まで減ります。
結果、納める消費税は17.5万円。
税負担だけ見ると、大きく増えるわけです。
「じゃあ飲食店は損なのか」
理論上は、損ではありません。
キャッシュフローを式にすると、こうなります。
改正前
売上(税込220万)− 仕入れ(税込54万)− 人件費(60万)− 家賃など(税込22万)− 納める消費税(14万)= 手元に残るお金 70万円
改正後
売上(税込220万)− 仕入れ(税込50.5万)− 人件費(60万)− 家賃など(税込22万)− 納める消費税(17.5万)= 手元に残るお金 70万円
仕入れの支払いが減った分、
納める消費税が増える。
差し引きすると、結局同じところに着地します。
でも、本質はここです。
普段は手元にお金が残りやすくなるのに、
決算後の納税でまとめて持っていかれる。
時系列で見ると、こうなります。
仕入れのタイミング(毎月)
仕入れにかかる消費税が下がるため、
毎月の支払いが少し軽くなります。
手元にお金が残りやすくなったように感じます。
決算のタイミング
1年分の数字が確定します。
ここで初めて、納める消費税が改正前より
増えていたことが判明します。
決算から約2ヶ月後(納税のタイミング)
消費税の納付期限が来ます。
ここで増えた分をまとめて支払う。
毎月少しずつ感じていた「余裕」は、
このタイミングで一気に消えます。
増えた分が消えるだけならまだいいですが、
納税資金として別に確保していなければ、
ここで資金がショートします。
さらに、理論通りにいかないリスクもあります。
たとえば仕入れ先が
価格を据え置いてくるケースです。
これまでと同じ支払額のまま
消費税率だけ下がれば、
控除できる消費税は減っているので、結果的に
手元のキャッシュフローはさらに減ります。
力関係次第では、十分に起こりうる話です。
スーパー・食品小売は「還付」という甘い罠
一方、仕入も売上も食料品中心の
スーパーはどうでしょうか。
売上180万円、原価率65%とすると、
仕入は117万円。
人件費30万円、家賃など10万円とします。
改正前
売上の消費税8%で14.4万円。
仕入の消費税8%で9.36万円。
家賃などの消費税1万円。
差し引き、納める消費税は4.04万円。
手元に残るお金は約23万円です。
改正後
売上の消費税が1%になり1.8万円。
仕入の消費税も1%になり1.17万円。
家賃などは変わらず1万円。
差し引きすると、還付に変わります。
それでも手元に残るお金は約23万円。
変わりません。
「還付されるなら得なんじゃないか」
そう思うかもしれません。
でも、還付にはとにかく時間がかかります。
決算後、申告してから
実際にお金が戻ってくるまで、
数ヶ月単位のタイムラグが生じることも
珍しくありません。
税務署は還付申告に対して、
かなり慎重な姿勢で臨みます。
本当に払いすぎているのか。
決算書の細部まで確認されます。
この改正で還付事業者が増えれば、
税務署側の処理も追いつかず、
さらに時間がかかることも予想されます。
「得するはず」が、実際には資金繰りの重荷になる。
これがスーパーや食品小売の落とし穴です。
今からできる3つの備え
ここまで見てきたように、
「減税」という言葉だけで安心してはいけません。
今のうちにできることを、3つ整理します。
仕入れ価格の交渉
仕入れ先の価格動向を見ながら、
据え置きにされないよう、
早めに確認・交渉しておく。
インボイス登録の要否確認
還付を受けるには、
消費税課税事業者である必要があります。
免税事業者のまま迎えると、
還付という選択肢自体がなくなります。
登録には時間がかかるので、
早めに検討しておく必要があります。
簡易課税・2割特例の見直し
簡易課税を選ぶと納税額が
大きく下がるケースもありますが、
業種によっては逆に不利になることもあります。
一度選ぶと2年間は継続する縛りもあるので、
数字でシミュレーションした上での
判断が必要です。
消費者は嬉しい、事業者は要注意
今回の改正は、消費者にとっては
シンプルに嬉しいニュースです。
食品が今より安く買えるようになります。
一方、事業者にとっては
資金繰りへの注意が必要な改正です。
減税どころか、納税のタイミングによっては
一時的に重い負担になります。
ここで注意したいのが、便乗値上げです。
仕入れ値上昇分の価格転嫁は、
経営を守るために必要な対応です。
でも、それを超えて必要以上に値上げをすれば、
消費者にとっての「安くなった」実感は消えます。
消費者は得をするはずだった。
事業者は資金繰りの負担を吸収するはずだった。
でも便乗値上げが広がれば、
どちらの側にとっても、
この改正をやった意味がなくなります。
まずは自分の仕入れ税率を確認してください
食料品の消費税が1%になる。
このニュースだけを見ると、
事業者にとっても朗報に見えます。
でも、実際に影響を受けるのは、
税額そのものより資金繰りのタイミングです。
普段は楽になったように感じても、
決算のタイミングでまとめて負担が来る。
還付があっても、手元に戻るまで時間がかかる。
このズレを知らずに迎えると、
思わぬ資金ショートにつながりかねません。
まずやるべきことはシンプルです。
自分の仕入れにかかっている消費税率が
何%なのか、確認してください。
そこがわかれば、自分の事業が今回の改正で
楽になる側なのか、厳しくなる側なのか
が見えてきます。
YouTube「にいみ税理士のお悩み相談室」
YouTube / にいみ税理士のお悩み相談室
日々の会計・税務・経営支援の現場でよくあるお悩みを解決!
さらに、節税のポイント、資金繰り、事業計画のヒントなどをわかりやすく解説しています。
気になる方は、ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします!



