債務超過は、借入を返済しても解消しない

「借入を返済すれば、
債務超過って解消しますよね?」
経営者の方から、よくこう聞かれます。
気持ちはよくわかります。
借金を返せば、財務は良くなる。
直感的には、そう感じますよね。
でも、実はこれ、正しくありません。
債務超過が解消するかどうかを決めるのは、
返済でも借入でもなく、
純資産がプラスになるかどうかです。
今日はこの誤解を、
数字を使って整理していきます。

債務超過とは何か

まず、債務超過の定義を確認します。
会社の財産状態は、貸借対照表(B/S)で
次の3つに分かれます。
資産:会社が持っているもの
(現預金・売掛金・設備など)
負債:会社が返すべきもの(借入金・買掛金など)
純資産:資産から負債を引いた残り
計算式にすると、こうです。
資産 – 負債 = 純資産
この純資産がマイナスになっている状態。
これが債務超過です。
例えば、こんな会社があったとします。
資産:3,000万円
負債:3,500万円
純資産:▲500万円
この会社は、持っているものを全部売っても、
借金を返しきれない状態です。
これが債務超過です。

借入を動かしても、債務超過は動かない

「じゃあ、借入を返済すれば
純資産はプラスに近づくのでは?」
と思う方も多いです。
実際にやってみましょう。

・返済した場合
先ほどの会社が、
現預金1,000万円を使って
借入を返済したとします。

返済前
資産:3,000万円(うち現預金1,000万円)
負債:3,500万円
純資産:▲500万円

返済後
資産:2,000万円(現預金が1,000万円減少)
負債:2,500万円(借入が1,000万円減少)
純資産:▲500万円

資産と負債が同時に1,000万円減っただけで、
純資産はまったく変わっていません。
これが、「返済しても債務超過は解消しない」
の正体です。

・借入を増やした場合
逆のパターンも見てみます。
同じ会社が、
新たに1,000万円を借入したとします。

借入前
資産:3,000万円
負債:3,500万円
純資産:▲500万円

借入後
資産:4,000万円(現預金が1,000万円増加)
負債:4,500万円(借入が1,000万円増加)
純資産:▲500万円

こちらも、純資産は変わりません。
つまり、借入は増やしても減らしても、
債務超過の状態そのものには触れない

のです。

「債務超過が怖いから借りない」は、順番を間違えています

これまでの記事でも、
現預金を厚くしておくことの重要性
何度もお伝えしてきました。
ここで一つ、注意してほしいことがあります。
「債務超過だから、
これ以上借入を増やすのはまずい」
と考えて、必要な借入まで
抑えてしまう経営者がいます。
でも、ここまで見てきた通り、
借入は純資産に触れません。
借入を抑えたところで、
債務超過そのものは1円も改善しないのです。
それどころか、借入を控えることで
手元の現預金が薄くなり
資金繰りの余力を失うだけになります。
債務超過対策のつもりが、
実は資金繰りを悪化させているだけ
というケースは少なくありません。
債務超過を解消する話と、
資金繰りを守る話は、
切り分けて考える必要があります。
必要な借入は、必要な理由で行う。
これは、債務超過であってもなくても
変わりません。

債務超過が及ぼす影響

とはいえ、債務超過を
放置していいわけではありません。
実際には、さまざまな場面で影響が出てきます。

金融機関からの評価
新規の借入や借換えの審査が厳しくなります。
金利条件が不利になることもあります。

信用調査への影響
帝国データバンクなどの信用調査で
評価が下がりやすくなります。
これは、取引先からの与信判断にも波及します。

代表者保証への波及
個人保証が絡んでいる場合、
金融機関との交渉力が弱くなりやすいです。

上場・M&A・事業承継の場面での障壁
デューデリジェンスの場面で、
債務超過は必ず論点になります。
評価額や交渉条件に直接影響します。

心理的な影響
数字上の話だけでなく、
経営者自身が守りの経営に入ってしまう
ということもよく起きます。
本来やるべき投資や採用を控えてしまう。
これも、見えにくいですが大きな影響です。

実際に解消する方法

では、債務超過を解消するには
何をすればいいのか。
中小零細企業が
自社の判断で現実的に動かせる手段から
順に見ていきます。

利益を積み上げる
最も基本で、最も王道です。
毎期の利益が、そのまま純資産を積み増していきます。
時間はかかりますが、
遠回りに見えて一番確実な方法です。

役員借入金を資本に振り替える
社長が会社に貸しているお金(役員借入金)を、
資本金に振り替える方法です(DESの一種)。
貸し手が社長自身なので、
社内の手続きだけで完結します。
ただ、中小零細企業ではあまり使われません。
金融機関の多くは、
役員借入金を実質的に資本とみなして評価してくれるため、
形式上は負債でも、審査上は困らないことも多いからです。
一方、信用調査会社や決算書だけで判断される場面では、
役員借入金は負債のままカウントされ、
形式的な債務超過は残ります。
これを解消したいときの選択肢が、資本組入れです。
ただし、金額が大きいと資本金が不自然に膨らみ、
均等割の負担も上がります。

株主総会決議や登記も必要なので、
「必要な場面で、必要な分だけ使う」という手段です。

役員借入金を放棄する
社長が、会社への貸付金を放棄する方法です。
これも中小零細企業にとって、
実は現実的な選択肢です。
第三者からの債権放棄は、
相手との交渉が必要でハードルが高いですが、
貸し手が社長自身であれば、
社長の意思決定だけで実行できます。

負債がそのまま減るので、
純資産への効果も直接的です。
ただし一点、注意点があります。
負債が減る分、
会社側には債務免除益という利益が発生し、
課税対象になる可能性があります。
実行する際は、その年の利益状況とあわせて
検討する必要があります。

増資
第三者や既存株主から
資本を入れてもらう方法です。
純資産が直接プラスになりますが、
引き受けてくれる相手がいなければ成立しません。
中小零細では、社長自身が増資を引き受けるケースも多く、
その場合は実質的に、
現預金を会社に入れることになります。

よって、中小零細企業にとって、
まず考えるべきは利益の積み上げです。

そのうえで、役員借入金がある会社であれば、
資本組入れ放棄
現実的な選択肢として視野に入ってきます。
増資は、相手のある話として、
さらにその先の選択肢と捉えておく。

今日できること

今日、一つだけやってみてください。
自社の直近の貸借対照表を見て、
純資産がプラスかマイナスか、数字で確認する。
それだけで十分です。
もし債務超過だったとしても、
慌てて借入を抑える必要はありません。
純資産を増やす方法を、
一つずつ考えていけばいいのです。


YouTube「にいみ税理士のお悩み相談室

YouTube / にいみ税理士のお悩み相談室

日々の会計・税務・経営支援の現場でよくあるお悩みを解決!
さらに、節税のポイント、資金繰り、事業計画のヒントなどをわかりやすく解説しています。
気になる方は、ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします!

よかったらシェアお願いします
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

目次