役員報酬を減らして配当を増やせば得、とは限りません

「社会保険料、もう少し抑えられませんか」
こういう相談を、経営者の方からよく受けます。
役員報酬を上げれば上げるほど、
税金だけでなく、社会保険料も比例して重くなる。
しかも経営者の場合、会社負担分も
実質的に自分で払っているようなものです。
「なんとか手元に残す方法はないか」
そう聞かれることが増えました。
そんなとき、選択肢の一つとして出てくるのが、
配当で支払うという方法です。
中小企業の場合、
経営者自身が自社の株をすべて持っている、
というケースも多いです。
その場合、会社から自分自身に対して
配当を出すこともできます。
でも、僕はこの相談を受けるたびに思います。
役員報酬か配当かは、
節税テクニックを選ぶ話ではありません。
本質は、法人税・社会保険料・所得税という
3つの負担を、どう配分するかの設計問題です。

配当が社会保険料の対象外である理由

まず、大前提から整理します。
役員報酬も配当も、
個人が受け取れば
所得税・住民税の対象になります。

ここは同じです。
まず、差が出るのは社会保険料の有無です。
社会保険料は、
労働の対価に対してかかるものです。
一方、配当は利益の分配であり、
労働の対価ではありません。
そのため、配当としていくら受け取っても、
社会保険料の計算には一切影響しません。
極端な話、役員報酬を最低限に抑えて、
残りを配当で受け取れば、
社会保険料の負担は大きく圧縮できます。
これが、配当を活用する最大のメリットです。

配当控除という仕組み

配当には、もう一つの特徴があります。
配当として会社から出ていくお金は、
すでに法人税が課された後の利益です。
その利益に、個人の所得税がさらにかかると、
実質的に二重課税されていることになります。
この二重課税を緩和するために
用意されているのが、配当控除という制度です。
課税所得1,000万円以下の部分については、
所得税は配当所得の10%、
住民税は配当所得の2.8%
を、
税額から直接差し引くことができます。
(課税所得が1,000万円を超える部分については、
この控除率がそれぞれ半分になります)

いいことばかりではない

ここまでだと、配当の方が有利に見えます。
でも、配当には配当の負担があります。
まず、配当は会社の経費にできません。
役員報酬であれば、
毎月同額を支払う等の要件を満たせば
会社の経費として法人税を圧縮できます。
しかし、配当は
税引き後の利益から出すお金のため、
そもそも経費という扱いにならず、
法人税を減らす効果もありません。
さらに、給与所得控除も使えません。
役員報酬であれば会社員と同様に
一定額を所得から差し引けますが、
配当にはこの制度がありません。
そして、原則として確定申告が必要になります。
役員報酬であれば年末調整で
完結する方も多いですが、
配当の場合はそうはいきません。
社会保険料が減る分、
別のところで負担が増える。
このバランスを見ずに、
「配当は得だ」とだけ捉えるのは危険です。
もう一つ、忘れてはいけない前提があります。
配当は、株主の持ち分割合に応じて、
機械的に支払われるということです。
役員報酬は、会社が金額を決めて支払えます。
誰にいくら払うか、
ある程度会社側に裁量があります。
一方、配当はそうではありません。
持ち分の割合に応じて、
決まった形で出ていきます。
これには、良い面と悪い面があります。
良い面は、
役員でなくても、
株主であれば受け取れる
ということです。
家族に株を持たせている場合など、
報酬という形を取らずに分配できます。
悪い面は、
自分だけ多く受け取る、
ということができない
ということです。
他に株主がいれば、
その人にも持ち分に応じて
支払わなければなりません。
つまり、この手法が使えるかどうかは、
その会社の株主構成に大きく左右されます。

見落とされがちな3つの注意点

配当を活用する際、
税金や社会保険料以外にも
見ておくべき点が3つあります。
1つ目は、将来の年金額が減ることです。
役員報酬を下げれば、
その分厚生年金の受給額にも影響します。
今の負担を減らすことと、
将来受け取る金額を減らすことは、
セットで考える必要があります。
2つ目は、住宅ローンなど個人の与信に影響する
可能性があることです。
銀行の住宅ローン審査では、
今の収入だけでなく、
その収入が今後も続くかどうかを見ます。
役員報酬は、会社が決めた金額を
毎月安定して支払うものなので、
継続的な収入として
評価されやすい傾向があります。
一方、配当は会社の業績次第で金額が変わります。
今期は出せても、来期は出せないかもしれない。
この変動しやすいという性質が、
審査上の評価に影響する可能性があります。
※審査基準は金融機関ごとに異なり、
非公開の部分も多いため、
あくまで一つの可能性として捉えてください。
3つ目は、配当を出すには分配可能額が必要
ということです。
過去の利益の積み上げ、
つまり純資産がなければ、配当は出せません。
赤字が続いている会社や、
設立間もない会社では、
そもそも使えない手法だということです。

結局、何を優先するかで決まる

整理すると、こうなります。
法人税に関しては、役員報酬の方が有利です。
社会保険料に関しては、配当の方が有利です。
所得税に関しては、
その方の収入水準によって
どちらが有利かが変わります。

きれいに割り切れる話ではありません。
実務上は、細かく設計しても
大きな差が出ないケースも多く、
結局はシンプルに役員報酬中心の設計
落ち着く会社が少なくありません。
それに、配当は株主構成という前提に
縛られる手法でもあります。
唯一の正解があるわけではなく、
その会社、その経営者が
今どのフェーズにいるかによって、
判断は変わってきます。

答えを急がず、まず仕組みとシミュレーションから

役員報酬か配当か。
どちらが正解、という話ではありません。
大事なのは、それぞれの手段の仕組み
正しく理解することです。
仕組みを理解しておくと、
今すぐ使わなくても、
株主構成が変わったとき、
業績が伸びたとき、
役員が増えたときなど、
様々な場面で選択肢として活用できます。
そして、自社の数字で
シミュレーションしてみる
ことです。
感覚や噂で判断せず、
法人税・社会保険料・所得税、
そして将来の年金や与信への影響まで含めて、
数字で比較したうえで決める。
この順番を守ることが、
結果的に一番手堅い選択につながります。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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