自己資本比率にこだわる社長ほど、資金繰りが危ない

「自己資本比率って、何%あれば安全ですか?」
経営者の方から、よくこう聞かれます。
たしかに、自己資本比率は
会社の安全性を測る代表的な指標です。
数字が高ければ高いほど良い。
そう考えるのは自然です。
でも、この数字は「高さ」だけを見ていると、
判断を誤ります。
大事なのは、%の高さそのものではなく、
その数字が何でできているかです。

自己資本比率とは何か

まず、貸借対照表(B/S)の構造を確認します。
資産は、会社が持っているもの。
これはイメージしやすいと思います。
一方、負債と純資産は、
その資産をどうやって調達したかを表しています。
負債は他人資本
銀行や取引先など、他人から調達したお金です。
返す必要があります。
純資産は自己資本
利益の蓄積や出資など、
自分たちで積み上げてきたお金です。
返す必要がありません。
つまりB/Sは、
「何を持っているか(資産)」と
「それをどう調達したか(負債・純資産)」
の2つの側面を表しています。
この前提の上で、計算式を確認します。

自己資本比率 = 純資産 ÷ 資産

以前、債務超過について書いた記事で、
純資産がマイナスになった状態が
債務超過だとお伝えしました。
自己資本比率は、その延長にある指標です。
資産全体のうち、
どれだけを返さなくていいお金(自己資本)で
賄えているか
を示しています。

自己資本比率の目安

業種や規模によって差はありますが、
中小企業のおおよその目安は、次の通りです。

マイナス:債務超過
10%未満:債務超過に近く、警戒水準
10~20%:一般的な中小企業に多いゾーンだが、改善余地あり
20~40%:標準的〜健全とされる水準
40%以上:優良水準

この記事では、15%前後の会社を
例に見ていきます。

危険というほどではないが、
決して安心できる水準でもない。
多くの中小企業に近い状況です。

比率だけを見ると誤解する

同じ自己資本比率でも、
中身がまったく違う2社があります。

A社(現預金を厚く持つ会社)
資産:8,000万円(うち現預金3,000万円)
負債:6,800万円
純資産:1,200万円
自己資本比率:1,200 ÷ 8,000 = 15%

B社(遊休資産や不良在庫を抱える会社)
資産:8,000万円(うち現預金500万円、
売れない在庫や使っていない設備が2,500万円)
負債:6,800万円
純資産:1,200万円
自己資本比率:1,200 ÷ 8,000 = 15%

自己資本比率は、どちらも同じ15%です。
でも、実態はまったく違います。
A社は、何かあってもすぐ動かせる
現預金を厚く持っています。
B社は、資産の中身が
すぐには現金化できないもの
膨らんでいるだけです。
比率という数字は、
資産の「量」は見せてくれますが、
資産の「質」までは教えてくれません。
%だけを見て安全・危険を判断するのは、
このリスクがあります。

比率を上げようとして、逆に危うくなるケース

自己資本比率を上げたいとき、
「借入を返済すればいい」
と考える経営者は少なくありません。
実際に数字で見てみます。

現状
資産:8,000万円(うち現預金1,500万円)
負債:6,800万円
純資産:1,200万円
自己資本比率:1,200 ÷ 8,000 = 15%

ここで、
現預金500万円を使って
借入を500万円返済したとします。

500万円返済後
資産:7,500万円(現預金1,000万円)
負債:6,300万円
純資産:1,200万円
自己資本比率:1,200 ÷ 7,500 = 16%

比率は15%→16%と、1ポイントしか動きません。
一方で、手元の現預金は
1,500万円→1,000万円と、
3分の1が消えています。
まだ足りないと、
この500万円に、
さらに500万円を上乗せして返済し、
合計1,000万円を返済したとします。

合計1,000万円返済後

資産:7,000万円(現預金500万円)
負債:5,800万円
純資産:1,200万円
自己資本比率:1,200 ÷ 7,000 ≒ 17%

比率は17%まで来ましたが、
現預金は1,500万円→500万円まで減っています。
残りはわずか3分の1です。
「早く20%に届かせたい」
という感覚だけで返済を続けると、
比率が危険水準を抜けきらないうちに、
現預金の防衛力の方が先に尽きてしまいます。
これが、借入返済で比率を
上げようとする方法の実態です。
比率という「見た目の数字」を追いかけて、
資金繰りという「実際の体力」を
犠牲にしていないか。
ここは、慎重に見極める必要があります。

比率を追いかけるより、優先すべきこと

本来優先すべきは、
比率そのものを上げることではなく、
経営を安全に、そして成長させ続けることです。
実際、金融機関が融資審査で見ているのは、
自己資本比率だけではありません。
現預金がどれだけあるかは、
必ず確認するポイントです。
中小企業にとって、
自己資本比率うんぬんよりも大切なのは、
現預金、もっと言えば
資金繰り計画そのものの健全性
です。
そして、それを支えるのは、
いつもお伝えしている通り、
精緻な損益計画と、
それに連動した資金繰り表
です。
とはいえ、自己資本比率を
軽視していいわけではありません。
実際には、こうした場面で影響が出てきます。

金融機関の評価
融資審査や格付けの重要な指標の一つです。
比率が低いと、金利条件や
融資枠に影響することがあります。

信用調査・取引先からの見え方
帝国データバンクなどの評価にも影響し、
取引先の与信判断にも波及します。

M&A・事業承継の場面
デューデリジェンスで必ず確認される指標です。
評価額や交渉条件に直接関わってきます。

比率を健全に上げる方法

では、自己資本比率を
健全に上げるにはどうすればいいのか。

利益を積み上げる
最も王道で、最も確実な方法です。
毎期の利益がそのまま純資産を積み増し、
資産を減らさずに比率が上がっていきます。

不要な資産を整理する
遊休資産や不良在庫を見直し、
処分・売却できるものは処分する。
資産の分母そのものを、質の良い状態に整えます。
これは現預金を減らさずに
比率を改善できる、数少ない方法です。

役員借入金の資本組入れ・放棄
以前の記事でも書いた通り、
役員借入金がある会社であれば、
資本組入れや放棄も選択肢になります。
負債が減り、純資産が増えるため、
比率の改善に直接効きます。
(詳しくは、債務超過の記事をご覧ください)

中小零細企業にとって、
まず考えるべきは利益の積み上げと、
資産の質を整えることです。

借入返済で比率を動かそうとするのは、
最後に検討する手段だと
考えておいた方がいいです。

まずは自社の自己資本比率を確認しましょう

一つだけ、確認してみてください。
自社の自己資本比率を計算して、
その数字の中身を見てみる。
現預金がどれくらいあるか。
資産の中に、動かせないものがどれくらいあるか。
比率の高さだけでなく、
その中身を見る。
それが、数字に振り回されない第一歩です。


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この記事を書いた人

新美 敬太のアバター 新美 敬太 代表税理士

「経営を楽しむ」という想いを大切に、日々経営者の皆さまと向き合っています。
税務・会計だけでなく、同じ目線で悩みや挑戦を共有しながら、一緒に考え、進んでいくことを大切にしています。
私自身も一人の経営者として、まだまだ成長の途中です。
だからこそ、うまくいくことも、迷う時間も、すべて含めて寄り添える存在でありたいと思っています。
経営の中にある楽しさや可能性を感じていただけるように。
これからも、皆さまと一緒に歩んでいきます。

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